研究課題
現在、肝予備能が維持された切除不能肝細胞癌に対する治療は、これまでの殺細胞性抗癌剤から分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤を併用する新たなレジメンへと変革が進んでいる。しかしながら、肝予備能低下(Child-Pugh B)のある肝細胞癌治療は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤を十分に使用することができないため「アンメット・メディカルニーズ」である。これまで我々は、「新規肝細胞癌治療;抗癌剤耐性進行肝細胞癌に対する鉄キレート剤治療」や「肝臓再生療法;非代償性肝硬変症に対する培養自己骨髄間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell; 以下、MSC)投与療法」を臨床開発し、2020年9月から非代償性肝硬変症に対して培養自己骨髄MSCを肝動脈投与する「自己完結型肝硬変再生療法」を医師主導治験として実施している。そこで本研究では、非代償性肝硬変症を背景に持つ進行肝細胞癌に対して「抗癌作用としての鉄キレート肝動注治療」と「肝機能サポートとしての培養骨髄MSC肝動脈投与療法」のハイブリット療法は生命予後を改善させるという作業仮説をラット肝硬変合併肝癌モデルで検証し、Proof of Concept(POC)を取得することを目的とした。これまでにCholine-deficient L-amino acid-defined(CDAA)食でラットを飼育することで、肝線維化形成に加えて肝腫瘍が経時的に発生する「肝発癌肝硬変モデル」を作出した。これに対して鉄キレート剤(DFO)を定期的に腹腔内投与する群、DFOとラット骨髄MSCを併用投与する群を作成し、肝線維化および肝腫瘍発生を組織学的に比較検討した。その結果、DFOまたはMSC投与により肝線維化は改善しており、肝腫瘍発生も抑制されることを組織学的に確認した。現在、このハイブリット療法が肝発癌を制御する因子の探索を進めている。
2: おおむね順調に進展している
肝発癌肝硬変モデルとしてCholine-deficient L-amino acid-defined(CDAA)食モデルを選択してモデル作成を行うことで、肝線維化形成に加えて肝腫瘍が経時的に発生することを確認した。またこれに対して鉄キレート剤(DFO)や骨髄MSCを投与し、組織学的な検討を行うことができたため。
肝発癌肝硬変モデルでDFOまたはMSC投与により肝線維化は改善しており、肝腫瘍発生も抑制されることを組織学的に確認したが、統計学的評価を進める。また、このハイブリット療法が肝発癌を制御する因子の探索を進めることにより、非代償性肝硬変症を背景に持つ進行肝細胞癌に対して「抗癌作用としての鉄キレート肝動注治療」と「肝機能サポートとしての培養骨髄MSC肝動脈投与療法」のハイブリット療法の有効性を確認する。
ラット肝硬変モデルは初年度(令和2年度)に作出しており、本年度(令和3年度)は肝臓の組織学的評価を行った。そのためラット購入費や飼育費等の支出なく、肝発癌および肝線維化の評価は予定通り行うことができた。また免疫染色を追加する予定であったが、これはコロナ禍の影響もあり進捗に遅延が発生した。そのため、来年度(令和4年度)にメカニズム解析として免疫染色や、成果発表としての学会参加を計画している。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)
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http://hepato.umin.jp/kouryu/kouryu62.html