研究課題/領域番号 |
20K08359
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
谷内 恵介 高知大学, 教育研究部医療学系臨床医学部門, 准教授 (50626869)
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研究分担者 |
和田 猛 東京理科大学, 薬学部生命創薬科学科, 教授 (90240548)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核酸治療 / 膵癌 |
研究実績の概要 |
膵癌細胞の葉状仮足(Lamellipodia)に局在し、浸潤・転移に関わるARHGEF4とLAMTOR2を独自の基礎研究により同定した。ARHGEF4とLAMTOR2のメッセンジャーRNA (mRNA)はRNA顆粒に内包されて葉状仮足まで運ばれ、局所翻訳されることにより浸潤・転移に関わる。葉状仮足におけるARHGEF4とLAMTOR2の局所翻訳を抑制することができれば、膵癌細胞の浸潤を減少させ、遠隔転移を抑制できる可能性がある。我々は、細胞実験によりARHGEF4とLAMTOR2をほぼ100%ノックダウンすることのできるRNA干渉の一つであるsmall interfering RNA(siRNA)の配列をそれぞれ同定した。本研究では、ヒト膵癌オルガノイド・モデルマウスを用いて以下の2つの実験を行う。① 膵癌細胞膜上に高発現しているレセプターと結合するリガンドにカチオン性ペプチドを付加したARHGEF4とLAMTOR2に対するsiRNAが、膵癌細胞まで効率よく輸送されるかの検討、② リガンド+カチオン性ペプチドを付加したARHGEF4とLAMTOR2のmRNAを標的とするsiRNAの浸潤・転移抑制効果と予後改善効果の検討を行う。 2021年度までにヒト膵癌オルガノイド・モデルマウスを用いて合成した核酸化合物が腫瘍部に選択的にデリバリーすることを確認することができた。肝臓に貯留する場合には肝障害を引き起こすリスクがあるが、当該化合物は肝臓への貯留をほとんど認めなかった。本研究のDDSは核酸を膵癌組織にデリバリーできる優れた性能を有する可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リガンドとカチオン性ペプチドを付加したARHGEF4とLAMTOR2に対するsiRNA化合物をヒト膵癌オルガノイド・モデルマウスに尾静脈から静脈注射した。それぞれのsiRNA化合物が膵癌組織までデリバリーされることを確認できた。デリバリーを確認できたことにより当該化合物が標的である膵癌細胞内のARHGEF4とLAMTOR2由来のmRNAを分解すると考えられる。現在核酸化合物を投与したマウスの腫瘍組織の免疫組織染色を実施しており、ARHGEF4とLAMTOR2の腫瘍部における発現が抑制されていることを確認する実験を行っている。実験計画は順調に進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
ARHGEF4とLAMTOR2に対するsiRNA化合物をヒト膵癌オルガノイド・モデルマウスに1回/週の頻度で合計6回尾静脈から静注投与する。各群10匹のマウスに投与を行う。移植の翌週から投与を開始し、全身状態の変化を観察する。6回目の投与を終了した翌週まで経時的に腫瘍サイズを計測して腫瘍増大抑制効果を検討する。コントロールsiRNAの核酸化合物を投与された群(10匹)および進行膵癌に対する治療で使用されるゲムシタビンを腹腔内投与する群(10匹)も準備して経時的に腫瘍径を測定する。ゲムシタビン投与群では、5日に1回、合計6回のゲムシタビン単剤の腹腔内投与を行う。その後、すべての群の膵癌組織を摘出し、ホルマリン固定する。ヘマトキシリン&エオジン染色を行い、組織標本を作製する。膵癌原発巣からの筋層浸潤の程度・脈管侵襲・皮下リンパ節転移・肝転移・肺転移をコントロールsiRNAの核酸化合物を投与されたマウス群と比較する。予後改善を検討するために、上記と同様に各群10匹のヌードマウスに、ARHGEF4とLAMTOR2に対するsiRNA化合物を合計6回尾静脈から静注投与する。移植後12週目までの生命予後および全身状態の変化を観察する。ARHGEF4またはLAMTOR2を標的とするsiRNA投与群において、コントロールsiRNAの投与されたマウス群およびゲムシタビン投与群に比較して予後が延長するかを解析する。解剖時にモデルマウスの採血を行い、肝・腎・膵機能および治療効果の指標になる腫瘍マーカーCA19-9の測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度のマウス実験が順調に進んだこともあり、当初の予算よりも経費がかからなかった。2022年度に実施する薬効評価目的のマウス実験に次年度使用額を使用する予定である。
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