研究課題
膵癌細胞の葉状仮足に局在し、浸潤・転移に関わるARHGEF4とLAMTOR2を独自の基礎研究により同定した。ARHGEF4とLAMTOR2のメッセンジャーRNA (mRNA)はRNA顆粒に内包されて葉状仮足まで運ばれ、局所翻訳されることにより浸潤・転移に関わる。葉状仮足におけるARHGEF4とLAMTOR2の局所翻訳を抑制することができれば、膵癌細胞の浸潤を減少させ、遠隔転移を抑制できる可能性がある。我々は、細胞実験によりARHGEF4とLAMTOR2をほぼ100%ノックダウンすることのできるRNA干渉の一つであるsmall interfering RNA(siRNA)の配列をそれぞれ同定した。本研究では、ヒト膵癌オルガノイド・モデルマウスを用いて以下の2つの実験を行った。① 膵癌細胞膜上に高発現しているレセプターと結合するリガンドにカチオン性ペプチドを付加したARHGEF4とLAMTOR2に対するsiRNAが、膵癌細胞まで効率よく輸送されるかの検討、② リガンド+カチオン性ペプチドを付加したARHGEF4とLAMTOR2のmRNAを標的とするsiRNAの浸潤・転移抑制効果と予後改善効果の検討を行った。予定通りに研究を進めることができ、リガンドとカチオン性ペプチドを付加したARHGEF4とLAMTOR2に対するsiRNA化合物をヒト膵癌オルガノイド・モデルマウスに尾静脈から静脈注射した結果、それぞれのsiRNA化合物が膵癌細胞までデリバリーされることを確認した。また、ARHGEF4またはLAMTOR2を標的とするsiRNA投与群において、コントロールsiRNAの投与されたマウス群および膵癌に対する既存治療であるゲムシタビン投与群に比較して膵癌組織の増大が抑制された。病理組織学的検討の結果、マウスの肝・腎・肺に炎症や組織構築の乱れはなく、肉眼的に異常を認めなかった。
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