研究実績の概要 |
原発性胆汁性胆管炎(PBC)のPRKCB陽性門脈域を詳細に解析する中で、PRKCBと同様にPBC疾患感受性遺伝子であるPOU2AF1が異所性リンパ濾胞に高発現していることが明らかとなった。そこで、本研究期間ではPBCにおけるPOU2AF1の意義や役割を中心に解析した。PBC肝組織においてPOU2AF1陽性細胞は、主に異所性リンパ濾胞のB細胞と傷害胆管周囲の形質細胞に発現していた。PBC肝組織のPOU2AF1遺伝子発現はAST, ALP, IgM, IgG, 抗gp210抗体と正に相関し、アルブミンと負に相関した。POU2AF1遺伝子発現と正に相関する遺伝子の中で上位20個の遺伝子に着目すると、そのほとんどはB細胞の活性化や形質細胞への分化に関連する遺伝子であった。POU2AF1遺伝子発現と正に相関する遺伝子(POU2AF1相関遺伝子)を765個 (r> 0.65)抽出して IPAによりパスウェイ解析をすると、B細胞だけでなく様々免疫細胞(Th1, Th2, B cell signaling など)のパスウェイが同定された。IPAで同定された上流因子の中でIL-4, IL-21, BAFF, CD40リガンドは、in vitroでヒトB細胞のPOU2AF1遺伝子発現を有意に増加させた。また、IL-21, BAFF, CD40リガンドは正常肝組織と比較してPBC肝組織で有意に遺伝子発現が増加していたことから、PBC肝局所におけるPOU2AF1発現増加に寄与している可能性が示唆された。POU2AF1相関遺伝子とChIP-Atlasデータの統合解析から26個のPOU2AF1標的候補遺伝子が同定された。これらの遺伝子は主にB細胞の活性化、分化、受容体シグナルに関連した遺伝子で、PBC疾患感受性遺伝子であるSPIB, PIM2, IL21Rを含んでいた。これらの結果から、PBC肝組織で発現が増加しているPOU2AF1は、主にIL-21, BAFF, CD40リガンド などの刺激により誘導され、胆管周囲の炎症や異所性リンパ濾胞の形成に関与するだけでなく、疾患感受性遺伝子であるSPIB, PIM2, IL21Rの誘導を介してPBCの発症や活動性に関与すると考えられた。
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