研究課題
令和2年度は誘導性サイトカイン発現マウスの樹立を行った。ピロリ菌感染粘膜で高発現が確認されているインターロイキン33(IL-33)に着目し、CAG-promoterおよびlox-stop-lox配列の下流にマウスIL-33を発現させるコンストラクトを用いてマウストランスジェニックラインを樹立した。そのうち系統3および系統5をKRT19-creERTマウスと交配させタモキシフェンの投与による遺伝子組み換えを誘導し、胃組織の免疫染色によりIL-33発現を確認した。このマウスはタモキシフェン投与1w後に胃体部の腺峡部付近にGSII陽性となる化生粘膜を生じ、4w後にはほぼ正常に回復していた。さらに1w後の胃粘膜の腺底部と粘膜下層にCD45、CD11b陽性の炎症細胞が浸潤し、また上皮細胞とくにGSII陽性細胞でSox9の発現が増加していたが、これらはすべて4w後に消失していることがわかった。4w後にはIL-33発現も野生型と同程度まで減少していた。本モデルは誘導性、一過性に炎症細胞浸潤と化生粘膜を生じる急性モデルとなると考えられる。さらに慢性的な化生粘膜作成を目指し、恒常的なIL-33発現モデルの樹立を行った。胃粘膜特異的、恒常的遺伝子改変を可能とするTFF1-creマウスとLSL-IL33マウスを交配したマウスでは生後3wでIL-33の腺窩上皮での発現増加がみられた。6w齢では体部を中心にSox9陽性の化生粘膜が発生し、12w齢ではさらに化生粘膜の増加がみられた。これらの化生粘膜は炎症細胞浸潤を伴っていた。
2: おおむね順調に進展している
胃粘膜化生発生メカニズムの解明のために急性化生発生モデル、慢性化生発生モデルの新規樹立に成功した。再現性が高く、さらに化生粘膜の回復も認められるため、治療法の開発にも有用と考える。今後化生発生のメカニズムについて、炎症細胞とサイトカインの相互作用またSox9の役割などを中心に検討していく。
TFF1-IL33マウスで表現型と網羅的遺伝子発現解析を行う。Mist1陽性細胞の役割を検討するためにMist1陽性細胞特異的遺伝子変異モデルを作成する。さらに発現亢進がみられた幹細胞マーカーSox9の胃粘膜における役割を解明するためにSox9ノックアウトの表現型を検討する。
COVID-19のために大学や研究室への入構が制限され、研究実施時間が十分に確保できなかった。また研究試薬などの輸入や製造が大幅に遅れたため、必要な物品を入手するのに時間がかかったため。現在感染の鎮静化とともに状況が改善してきており、今年度に繰り越した研究費を利用予定である。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Microorganisms
巻: 8 ページ: 1-20
10.3390/microorganisms8121995
Biomedicines.
巻: 10 ページ: 1-11
10.3390/biomedicines8100419.