研究課題
膵癌は、手術以外の有効な治療法がなく、化学療法の効果も十分でないことから、わが国の癌死の第4位を占め、増加傾向にある予後不良な疾患である。従って、基礎研究の成果に基づく、新規治療法の開発が喫緊の課題である。5年生存率が10%以下という、疾患の進行速度を考慮すると、少ない治療回数で、より長期間の治療効果を示す新規治療法のニーズが高く、その点で遺伝子治療の特徴、利点が合致すると考えた。そこで本課題では、膵臓に対して臓器選択的HGDを確立し、膵癌の遺伝子治療法に応用するための方法論を学術的に検証することを目的として研究を行った。令和2、3年度に癌関連遺伝子発現プラスミドDNAを膵臓選択的に導入し、効率的に膵癌モデルを作製するためのHGDパラメータを確立した。具体的には、各種の膵癌関連遺伝子発現ベクター(MYC, KRAS及びその変異体KRASG12D, NRAS及びYAP遺伝子)またその組み合わせの遺伝子溶液を野生型ラットの膵臓選択的にHGDした。導入核酸量、注入速度、溶液量などのHGDパラメータと導入後経過時間、発癌遺伝子の組み合わせを行った。その結果、膵管上皮の異型から癌病変である膵上皮内腫瘍性病変を形成する素地となる腺房-導管異形成の発生や悪性度の高い膵癌、肝臓、皮下、リンパ節転移モデルまで様々な段階の膵癌モデルを作成することができた(特許第6943427号)(特願2020-102959)(論文 Cancers 2020; Mol. Ther. Nucleic. Acids 2022)。そこで、令和4年度には、膵癌細胞で上皮系マーカーであるEカドヘリンの発現低下と、間葉系マーカーであるNカドヘリンの発現上昇を認めるなど、この膵癌モデルの癌組織及び周辺組織の遺伝子発現変化の検討から、膵癌遺伝子治療のための細胞選択性を担保するためのプロモーター候補が選択された(論文投稿中)。以上の結果から、膵臓選択的なHGDが膵癌治療に有用な方法論として応用できることが明らかとなった。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 3件)
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