B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓の主要な発がんウイルスで、感染者数は世界で約2.9億人と推定されている。HBV慢性感染により、肝炎から肝硬変や肝がんへと進行していくが、この感染の持続にはcccDNAと呼ばれるウイルスDNAが感染細胞核内でミニ染色体として存在することが必須である。我々はこれまでの研究で、cccDNAに高頻度突然変異やDNA分解を引き起こす抗ウイルス因子、cccDNA形成や変異修復に関わる宿主DNA修復因子を複数同定してきた。その中で本研究課題では、ウイルスゲノムにC-to-Uの変異を導入するAPOBEC3タンパク質ファミリーと、DNA上のUを除去修復するUNGタンパク質に着目した。HBVが感染・複製している培養肝細胞をインターフェロンγで刺激することでAPOBEC3Gを始めとする複数のAPOBECファミリーが発現上昇することが確認できた。インターフェロンγ添加の有無、UNG活性の有無により培養細胞での変異導入因子と修復因子の発現をコントロールし、それに応じてHBV cccDNAの変異頻度が増減することを明らかにした。変異が蓄積されたcccDNAを回収し肝細胞に再導入すると、ウイルス複製能が抑制されていた。また、公共データベースから慢性B型肝炎患者の肝臓マイクロアレイ解析データを入手し、対照群と比べてAPOBECファミリーの発現が上昇していることが確認された。このことから培養細胞での実験結果が実際の肝炎患者でも生じている可能性が考えられる。これらの成果は論文としてまとめ、報告した。最終年度は変異パターンを網羅的に解析するためにNanoporeシークエンスを新たにラボ内で立ち上げた。今後の展開として、慢性感染を想定した長期培養におけるcccDNAの変異頻度の変化と、ウイルス複製や薬剤耐性など病態に関わる機能変化について検討する。
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