研究課題/領域番号 |
20K08388
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
渡辺 崇夫 愛媛大学, 医学系研究科, 講師 (90650458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肝細胞癌 / PKR / 細胞増殖 / 代謝 / 結合蛋白質 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにProtein kinase R (PKR)阻害剤 (C16)を用いた、in vivo, in vitroの検討を行い、PKR阻害剤の投与により腫瘍の増殖が著明に抑制されることを示している。 PKRによる癌促進の機序を明らかにするため、肝細胞癌細胞株Huh7細胞にPKR阻害剤を加えることで変化するリン酸化タンパク質を質量分析の手法で網羅的に解析し、PKR阻害剤のキナーゼとしてのターゲットを複数同定した。その中で、肝癌細胞内の代謝制御に関与している可能性のある分子が複数見られたが、特に解糖系の主要酵素であるHexokinase-2 (HK2)に注目した。細胞外フラックス・アナライザーを用いて、解糖系, ミトコンドリア呼吸を解析した結果、PKR阻害剤投与により、特に解糖系によるATP産生が著しく低下することが明らかとなった。次にPKRによるHK2発現調節機序について検討した。肝細胞癌細胞株へのPKR阻害剤添加により、HK2発現はmRNA、蛋白質レベルで減少した。さらにタグ付PKR、HK2発現プラスミドを作成し、IP-westernを行ったところ、PKRとHK2の直接的な結合は見られなかった。そこでPKR, HK2それぞれの相互作用蛋白質 (結合蛋白質)を同定するため、Flag-PKR, Flag-HK2を発現するプラスミドをそれぞれHEK293 細胞にトランスフェクションし、IP および MS サンプル調製を行った。得られたサンプルを LC-MS/MS 測定に供し、相互作用タンパク質検討した結果、PKR, HK2の共通の結合蛋白質としてEIF2S3 (EIF2γ)を同定した。PKR, HK2はEIF2S3を介して結合している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでに、Protein kinase R (PKR)は、HCVが関与する肝細胞癌において非癌部の肝組織に比べて強発現していること、HCV関連肝細胞癌においてPKRは細胞増殖促進作用を示すことを見出している。また、PKR阻害剤 (C16)を用いた、in vivo, in vitroの検討を行い、PKR阻害剤の投与により腫瘍の増殖が著明に抑制された。またPKR阻害剤は腫瘍微小環境にも影響を与え、増殖因子の発現抑制により血管新生を抑制する作用も有していた。 肝癌細胞において、PKRが癌細胞内代謝制御に関わっていることを予想し、検討を進めている。今年度はまず、細胞外フラックス・アナライザーを用いて、解糖系, ミトコンドリア呼吸を解析し、実際にPKR阻害剤投与によりエネルギー産生が著明に低下することが明らかとなった。その機序としてHK2との相互作用を候補として解析した。PKR阻害剤投与によりHK2の発現は低下していたが、PKRとHK2の直接の結合は見られず、間接的な相互作用が予想された。そこでIP-MSによりPKR, HK2の結合蛋白質の解析を行い、共通の結合蛋白質としてEIF2S3を同定した。 また、他機関より供与されたPKRノックアウトマウスについは実験準備を完了し、現在食餌性NASHモデルを作成している。今後PKRノックアウトマウスとwild typeマウスで、肝線維化、さらに肝癌発生について比較検討していく。
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今後の研究の推進方策 |
タグ付きEIF23発現プラスミドを作成し、EIF2S3を介したPKR, HK2の相互作用について解析を進める。また、前述のIP-MSによりwild type PKRの結合タンパク質、さらにリン酸化活性を消失させたmutant typeであるPKR K296Rの結合蛋白質について網羅的に解析し、それらを比較することでPKRのシグナル依存的な直接結合蛋白質を同定する。それにより、PKRの肝癌促進作用の機序の解明につなげたい。またマウスの食餌性NASHモデルを用いて、PKRノックアウトマウスとwild typeマウスについて、肝線維化、肝癌発生について比較していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会参加のための旅費を計上していたが、新型コロナウイルスの感染状況によりwebでの参加が主となったため次年度以降に繰り越した。
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