研究課題
我々はこれまでにPKRはErk1, JNK1およびその下流のc-Fos、c-Junを活性化、肝細胞癌の細胞増殖シグナルを増強することで、腫瘍の進展を助長していることを明らかにした。また、PKR阻害剤 (imidazolo-oxindole)は、腫瘍の増殖を著明に抑制するとともに、増殖因子の発現抑制により血管新生を抑制する機序も有していた。そこで、PKRによる癌促進の機序を明らかにするため、肝細胞癌細胞株Huh7細胞にPKR阻害剤を加えることで変化するリン酸化タンパク質を質量分析の手法で網羅的に解析し、PKR阻害剤のキナーゼとしてのターゲットを複数同定した。その中で、肝癌細胞内の代謝制御に関与している可能性のある分子が複数見られたが、特に解糖系の主要酵素であるHexokinase-2 (HK2)に注目した。細胞外フラックス・アナライザーを用いて、解糖系, ミトコンドリア呼吸を解析した結果、PKR阻害剤投与により、特に解糖系によるATP産生が著しく低下することが明らかとなった。次にPKRとHK2の直接的な相互作用を確認するため、タグ付PKR、HK2発現プラスミド、さらにリン酸化活性を消失させたmutant typeであるPKR K296Rのタグ付き発現プラスミドも作成し、wild typeとmutant typeでの反応の違いをみることでPKRシグナル依存的な蛋白質相互作用を検討した。タンパク質発現はwild typeに比べmutant typeで高かった一方で、HK2との結合はmutant typeとのみで顕著にみられた。つまりPKRとHK2の結合がPKRのシグナル依存的であり、HK2がPKRのkinaseとしての器質となっている可能性があると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
肝癌細胞において、PKRが癌細胞内代謝制御に関わっていることを予想し、検討を進めている。昨年度までに細胞外フラックス・アナライザーを用いて、解糖系, ミトコンドリア呼吸を解析し、実際にPKR阻害剤投与によりエネルギー産生が著明に低下することが明らかとなった。また、肝細胞株へのPKR阻害剤添加によりHK2の発現が容量依存的に低下することも確認している。今年度は、PKRとHK2の相互作用について詳細な解析を行った。IP-MSによりPKR, HK2の結合蛋白質の解析を行い、共通の結合蛋白質としてEIF2S3を同定していたため、PKRとHK2はEIF2S3を介して結合、相互作用するのことを想定しIP-westernを行った。その結果HK2とEIF2S3の結合は明らかであったが、一方でPKRとEIF2S3の結合は確認できなかった。そこでPKR wild typeに加え、リン酸化活性を消失させたmutant typeであるPKR K296Rのタグ付き発現プラスミドも作成し、PKRとHK2の蛋白質相互作用を検討した。その結果、PKRのHK2の結合はmutant typeとのみ確認され、PKRのシグナル依存的であることが明らかとなった。また、他機関より供与されたPKRノックアウトマウスを用いた実験も進めている。WTマウス, PKRノックアウトマウスそれぞれを、4週齢よりwestern dietを与え、食餌性NASHモデルをとして検討を行った。今年度はwestern diet 24W投与の段階で評価を行った。しかしWT、PKRノックアウトマウスともに著明な肝脂肪化がみられたが肝線維化は明らかでなく、今後はwestern dietの負荷を48Wに延長し投与を行うこととし準備を開始した。
昨年度までに肝細胞癌におけるPKRとHK2の相互作用を明らかとした。今後は肝細胞癌細胞株においてHK2発現、あるいはHK2のリン酸化がどのような癌促進作用を持っているか、またその作用がPKRとHK2の相互作用に依存しているかどうかを明らかにしてたい。またPKRとHK2の結合がPKRのシグナル依存的であったため、HK2がPKRのkinaseとしての器質となっている可能性を考えている。そこでPhos-tag電気泳動を用いてリン酸化HK2を検出して、それがPKRのシグナルに依存するかどうかを検討していく予定である。またマウスの食餌性NASHモデルの実験については、PKRノックアウトマウスとwild typeマウスにwestern diet 48W投与を進めており、肝線維化、肝癌発生について比較していく予定である。
学会参加のための旅費を計上していたが、新型コロナウイルスの感染状況によりwebでの参加が主となったため次年度以降に繰り越した。
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