研究課題
予後不良な消化器癌である食道扁平上皮癌ではp53変異が高頻度に認められるが、変異p53自体は治療標的とはならず、有効な分子標的薬も存在しない。本研究では、p53の機能獲得(GOF)変異に着目し、p53ネットワークにかかわるトランスクリプトームの全容をゲノム情報を駆使して効率的に分析し、機能解析へと展開する。さらに発現異常、遺伝子変異の有無、悪性度および治療効果との関連性を解析することで、食道癌の新しい診断・治療効果予測システムを開発しようとするものである。ゲノム情報に基づいたがんの個別化医療の理想に近づく基礎研究を目指す。本年度は以下の研究成果をあげた。1)血液中を流れる患者特有のがん由来DNA(circulating tumor DNA, ctDNA)について、次世代シークエンサー、およびデジタルPCRを用いた超高感度検査を確立し、消化器癌患者診療における実用性を明らかにした。 大腸癌患者52例の解析で、術後ctDNA モニタリングの有用性を示した。2) 食道扁平上皮癌関連疾患である頭頚部扁平上皮癌26症例を対象に治療前後のctDNAの分析が治療効果と再発モニタリングに有用かを評価した。根治的治療後にctDNAが陰性化しない、または陰性化後早期に陽転化した症例全例で再発を認め、ctDNAが頭頚部扁平上皮癌の有望なバイオマーカーであることが示唆された。 3) 根治的放射線療法で治療されたstage IB子宮頸癌18症例の網羅的ゲノム解析から、KRASとSMAD4の同時変異が局所再発に関連することを推測し、in vitro、およびin silicoの系で検証を行った。 4) 初回治療で多剤併用化学療法を施行した食道癌42例を対象として、化学療法1サイクル前後のctDNAを解析し、ctDNA変動から治療効果を高精度で予測可能であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
1)次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、野生型p53に制御されるタンパクコード遺伝子、非コードRNA、miRNAを複数同定している。2)今年度は新規食道扁平上皮癌症例39例のDNA, RNAの抽出を行い、p53,およびがん関連遺伝子の変異を解析した。その結果、34/39 (87.2%)でp53変異を認めた。29のミスセンス変異を認め、今後GOF変異かどうかの検証を行う予定である。3)GOF活性を評価した変異型p53発現プラスミド、またはアデノウイルスベクターを細胞株に導入し、細胞増殖能、抗がん剤感受性の解析を進めている。
1) GOF変異p53導入による、細胞増殖能、抗がん剤感受性の解析を複数種類の食道癌細胞株で行う。2)次世代シークエンサーを用いて、変異型p53のGOFによって変化するトランスクリプトームを抽出する。候補となるトランスクリプトを約120種同定しており、食道扁平上皮癌組織での発現をISH法,qRT-PCR法を用いて解析し、臨床病理学的因子(脈管浸潤、リンパ球浸潤、リンパ節転移、遠隔転移など、治療抵抗性,予後との相関 の有無から、バイオマーカーとしての有用性を検討する。
本年度は癌症例のRNA-seq(タンパクコード遺伝子・lincRNA),small RNA-seq(miRNA)の解析(細胞株のトランスクリプトーム)を行ったが、大学予算の試薬を使用できたため、充分な実験データが得られた。前年度の残額を含め最終的に100万円あまりの次年度使用額が生じた。<使用計画> 施行済みの次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、p53に制御される非コードRNAの候補を同定している。成果の一部を学術誌に投稿し、revisionの判定がなされた。再投稿に必要な追加実験を予定している。新規症例の解析とともに、研究を他の癌に拡げることを計画しており、口腔癌、頭頚部癌での共同研究を進めたい。また、関係学会が開催された場合、成果発表を予定している。細胞レベルでの発現・転写解析のための試薬類(次世代シークエンス試薬約80万円)、臨床検体でのRNA発現解析のための試薬類(酵素類約20万円),学会出張旅費約15万円:日本癌学会(場所横浜,2022年9月29日-10月1日),日本分子生物学会(場所幕張,2022年11月30日-12月2日)
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Cancer Medicine
巻: in press ページ: in press
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https://researcher.sapmed.ac.jp/search?m=home&l=ja
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