研究課題/領域番号 |
20K08390
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
佐々木 泰史 札幌医科大学, 医療人育成センター, 教授 (70322328)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | p53 / 食道扁平上皮癌 / 機能獲得変異 |
研究実績の概要 |
変異型p53の多くは野生型p53のDNA結合能を喪失させ,p53下流経路を阻害するドミナントネガティブ効果を有している.一方で一部の変異型p53は単に野生型p53の機能を阻害するだけでなく,新たな機能を獲得して (Gain of function : GOF,機能獲得変異),腫瘍の転移や浸潤に直接関わっていることが報告されているが,そのメカニズムは充分に解明されていない.予後不良な消化器癌である食道扁平上皮癌ではp53変異が高頻度に認められるが、変異p53自体は治療標的とはならず、有効な分子標的薬も存在しない。本研究では、p53の機能獲得(GOF)変異に着目し、p53ネットワークにかかわるトランスクリプトームの全容をゲノム情報を駆使して効率的に分析し、機能解析へと展開する。さらに発現異常、遺伝子変異の有無、悪性度および治療効果との関連性を解析することで、食道癌の新しい診断・治療効果予測システムを開発しようとするものである。 本年度は以下の研究成果をあげた。 1)血液中を流れる患者特有のがん由来DNA(ctDNA)について、NGS、およびデジタルPCRを用いた超高感度検査を確立し、消化器癌患者診療における実用性を明らかにした。 現在食道扁平上皮癌患者15例のctDNA モニタリングのフォローアップを継続している。 2) 頭頚部扁平上皮癌26症例を対象に治療前後のctDNAの分析が治療効果と再発モニタリングに有用かを評価した。根治的治療後にctDNAが陰性化しない、または陰性化後早期に陽転化した症例全例で再発を認め、ctDNAが頭頚部扁平上皮癌の有望なバイオマーカーであることが示唆された。 3) 進行の早い肝内胆管粘液癌の1症例について、網羅的ゲノム解析を行い、p53の機能獲得変異が発症、および転移・浸潤に関わる可能性があることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、野生型p53に加え、GOF活性を持つ変異型p53導入に発現が変化するタンパクコード遺伝子、非コードRNA、miRNAを複数同定した。 2)GOF活性を評価した変異型p53発現プラスミド、またはアデノウイルスベクターを食道扁平上皮癌細胞株に導入し、細胞増殖能、抗がん剤感受性が異なる株を同定した。 3) ヒト正常食道扁平上皮細胞株 Het-1Aの培養系を確立し、プラスミド、およびアデノウイルスベクターの導入効率を評価した。今後正常食道扁平上皮細胞にGOF活性を持つ変異型p53を導入した際の生物学的挙動を分析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1) GOF変異p53導入による、細胞増殖能、抗がん剤感受性の解析を複数種類の食道癌細胞株、およびヒト正常食道扁平上皮細胞株で行う。 2)次世代シークエンサーを用いて、変異型p53のGOFによって変化するトランスクリプトームを抽出する。候補となるトランスクリプトを約120種同定しており、食道扁平上皮癌組織での発現をISH法,qRT-PCR法を用いて解析し、臨床病理学的因子(脈管浸潤、リンパ球浸潤、リンパ節転移、遠隔転移など、治療抵抗性,予後との相関 の有無から、バイオマーカーとしての有用性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は癌症例のRNA-seq(タンパクコード遺伝子・lincRNA),small RNA-seq(miRNA)の解析(細胞株のトランスクリプトーム)を行ったが、大学予算の試薬を使用できたため、充分な実験データが得られた。前年度の残額を含め最終的に90万円あまりの次年度使用額が生じたため、補助事業期間延長の申請し、承認された。 <使用計画> 施行済みの次世代シークエンサー解析、およびp53結合コンセンサス配列の全ゲノム網羅的解析から、p53に制御される非コードRNAの候補を同定している。R5年度は、ヒト正常食道扁平上皮細胞株を用いた解析を予定している。 また、論文の投稿、関係学会での成果発表を予定している。細胞レベルでの発現・転写解析のための試薬類(次世代シークエンス試薬約66万円)、臨床検体でのRNA発現解析のための試薬類(酵素類約20万円),学会出張旅費約8万円:日本癌学会(場所横浜,2023年9月21日-9月23日)
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