研究課題
本研究では、マウス臓器間比較によって得られた心臓血管内皮細胞特異的な転写因子に着目して、臓器特異的な血管内皮細胞の機能を解析している。昨年までの研究にて4つの特異的転写因子を見出しており、それらの発現をシングルセルレベルでマウス心筋で確認してきた。特に、4つの転写因子は全ての欠陥内皮細胞に同様に発現しているものではなく、ヘテロな組み合わせを構築していた。本年度は、昨年作成したtag-labeled vectorを用いてChIPseq/ATACseqのデータ解析から、それぞれの転写因子が異なる直接的制御機構を構築していることを明らかにした。これをもとに、様々な転写因子の組み合わせ過剰発現細胞株を作成し、傷害心筋への移植モデルを用いて重要な因子の絞り込みに取り組んだ。その結果、4因子のうち2因子が生着に必須であること、また付随する3つ目の因子によって分子発現パターンが異なることを明らかにした。それぞれ下流として働きかける機能分子”Angiocrine factor”に 特徴が見られていた。今後、これらの機能分子がどのように心筋に働きかけるかを解析するためにノックアウト細胞株を樹立する。また、過剰発現によって作成したリプログラミング心臓血管内皮細胞の心筋細胞への機能を明らかにするために共培養実験によって心筋細胞の分子発現を解析した。その結果、細胞増殖に関わる分子発現に変動が見られ、実際にKi67と用いた増殖実験においても胎児心筋細胞の増殖が確認できた。今後は、生涯モデルとして使用している心筋虚血状態において、リプログラミング心臓血管内皮細胞移植後にどのように分子発現が変動するかをsingle nuclei RNAseqを行うことで解析する。
2: おおむね順調に進展している
選択していた4転写因子について、昨年度実施していたChIPseqならびにATACseqを行っていた。まずこのデータ解析を通じて、「直接的な調節領域」と「2次的な調節領域」にターゲットを絞り込むことができた。このデータとともに、リプログラミング血管内皮細胞の心臓への生着に関する転写因子とエフェクター分子の選別のために、リプログラミングする細胞を1因子・2因子・3因子・4因子それぞれの組み合わせ15種類+コントロール細胞を混ぜ合わせてマウス虚血心臓に移植する実験を行った。移植した細胞は、3週間後に単離しシングルセルRNAseqを施行した。これにより、いくつかの生着クラスターが明らかとなり、特に2因子の必須的役割とこれに付随する3因子目によって相違が生じることが分かった。機能を発揮する分子として3つの生理的因子すなわち”Angiocrine factor”を見出し、それらがいずれも「直接的な調整領域」にあることまで解明することができた。これら3つのAngiocrine factorはリプログラミングにて発現変動するほか、マウス血管内皮細胞における発現比較においても心臓特異的な分子群であることもRNAseqデータ解析からわかっている。次に、リプログラミングした血管内皮細胞が心筋細胞に及ぼす分子学的変化を解析するために共培養実験を行った。蛍光色素で標識したマウス胎児心筋細胞を用いて、共培養後の心筋細胞を回収したのちRNAseqを行った。その結果、細胞分裂に関わる経路が活性化していることが明らかとなった。
次年度は、大きく2つの最終解析を経て研究完了を目指す。まず、胎児心筋でえられた心筋細胞の発現変動と同様に、病的モデル特に成体期においてリプログラム血管内皮細胞が心筋細胞にどのように影響するか解析する。心筋梗塞モデルへの血管内皮細胞移植後に、心筋細胞を単離し核抽出を行う。これを single nuclei RNAseq にて解析し非移植心筋との比較によって、心筋細胞への影響を明らかにする。次に、これまでに明らかになったリプログラム血管内皮細胞からの作用分子候補、すなわち3つのAngiocrine factorについて、その機能的意義を解析する。現在、これらをターゲットにguideRNAをデザインしており、CRISPR-Cas9技術を用いてノックダウン細胞株を作成する。これをリプログラミング血管内皮細胞に組み込むことで、これまで見られた心筋への効果・移植血管の生着化に変化が見られるかを解析する。最後に、以前の実験で確認していた心臓機能改善がどのように変化するか解析を行う。以上のデータを総合化し、次年度中に論文投稿へ向かう。
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American Journal of Physiology-Cell Physiology
巻: 321 ページ: C596~C606
10.1152/ajpcell.00387.2020