研究実績の概要 |
重症虚血肢(CLI)患者29症例/34対象肢に脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRCs)を移植し, 6ヶ月のフォローを完遂した。その結果、周術期および観察期間6ヶ月の間で、死亡者および細胞移植関連有害事象は認められず、大切断回避率が94.1%と非常に良好な結果が得られた。また、安静時疼痛の程度や潰瘍サイズ、6分間歩行距離、いずれも大幅に改善した。ADRC移植を行なった5名の患者のVEGFとCRPの推移を検討したところ、血管新生因子のVEGF-Aと抗血管新生因子VEGF-A165bの比(VEGF-A165b/VEGF-A ratio)は1ヶ月、6ヶ月後に大きく低下しており、血管新生促進の方向に働いていた。また炎症の指標であるCRPは低下の傾向を示した。次に、ADRC移植に伴う効果に肥満度や生活習慣病(糖尿病、高血圧等)の有無が影響していないか否か、糖尿病のないBMI21の方のADRCsと糖尿病を有するBMI30の方のADRCsをサイトカインアレイにて比較検討を行った。その結果、IL-6やGDF-15の発現が糖尿病合併肥満患者のADRCで増加していた。さらに、マウス創傷治癒モデルを用いた検討では、ADRCs、ADRC培養上清液のいずれの投与においてもコントロール群と比して、移植後1,3,5,7,9,11,14日目の創傷治癒効果が増強していた。また、創部周囲皮膚組織をCD31免疫染色にて評価したところ、ADRCs、ADRC培養上清液のいずれの投与においても、コントロール群と比較して、移植後14日目の創部周囲の微小血管の増加効果が確認された。以上から、CLI患者への自己ADRC移植は効果的で、その機序として、VEGF分泌調節や患部組織での炎症抑制効果、創部での創傷治癒促進効果などが考えられた。また、肥満や糖尿病などの基礎疾患の有無がADRC移植の効果に影響を与える可能性が示唆された。
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