腹部大動脈瘤(AAA)は、炎症に伴う血管壁の脆弱化により腹部大動脈の一部が拡張し最終的に破裂する致死的な疾患である。AAAに対する内科的治療は未だ確立されていないため、治療法開発の基盤になり得る基礎研究が必要とされている。これまで、主に炎症や炎症に付随する組織破壊を低減することによるAAAの治療が模索されてきた。 最近我々は、骨代謝関連因子の一種であるオステオプロテゲリン(Opg)を欠損した(KO)マウスを用いたApoE-KO/ AngII AAAモデルで、大動脈外膜の肥厚が筋線維芽細胞とみられる細胞の増殖と線維化を伴って生じ、動脈径の拡大が抑制される傾向があることを見出した。我々はこの知見を応用し、大動脈外膜において、Opg-KOマウスで見られたような線維化を人為的に誘導することにより、組織構造を補強しAAA進展を防ぐといった、革新的なアプローチによるAAA治療法を探索することを目的として研究を進めてきた。 まず、ApoE/Opg-dKOマウスで見られた外膜の線維化がOpg-KOで生じるか否かを検討するため、Opg-KOマウスにAngIIを28日間持続投与して大動脈を採取した。今後、線維特異的マーカーを用いた免疫染色で検討する。次に、大動脈に蓄積した筋線維芽細胞に特徴的に発現する遺伝子を、通常のマウス血管平滑筋細胞や線維芽細胞と比較することによって抽出するため、血管平滑筋細胞(VSMC)を筋線維芽細胞分化の誘導因子であるTgf-β1で刺激して筋線維芽細胞へと分化転換するか否かについて確認した。Tgf-β1で5日間連続刺激して各遺伝子の発現変化を経時的に観察したところ、VSMCの特異的マーカーが刺激1日後から顕著に減少することを認め、Tgf-β1刺激によってVSMCが分化転換する可能性が示された。今後、筋線維芽細胞特異的に発現する遺伝子をRNAseqを用いて検討する。
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