2022年度はグリンパティックシステム改善による慢性心不全モデルの脳内環境・血行動態改善及び循環恒常性を行なった。慢性心不全モデル動物として、前年度と同様に収縮不全型心不全モデル(冠動脈結紮誘発心筋梗塞)・拡張不全型心不全モデル(Dahl食塩感受性ラットへの食塩負荷)・重症心不全モデルラット(自然発症高血圧ラットへの経口塩分負荷+アンジオテンシンII持続静脈内投与)を用い、アクアポリン4活性薬を浸透圧ポンプで脳室内に4週間投与した。その結果、いずれのモデルにおいても低下していたグリンパティックシステムは人工脳脊髄液を投与した対照群と比較し有意に改善し、脳内酸化ストレス低下・交感神経活動低下を認めた。また、輸液負荷時の左室拡張末期圧上昇の程度が、緩徐(循環動態が破綻しにくくなった)になった。なお、心筋や血管・腎臓の組織評価や、脳内アストロサイトの形態評価の脳内部位別変化、詳細な血行動態解析は行うことができなかった。また、予定していた例数での検証には至らなかった。得られた結果から、収縮不全・拡張不全・重症心不全において、グリンパティックシステムを改善させれば血行動態・循環恒常性も改善する可能性が考えられた。また、3年間の研究期間全体を通じて実施した研究の成果として、1) アストロサイトのアクアポリン4異常によるグリンパティックシステム不全が循環恒常性破綻から慢性心不全を進展させる、2) グリンパティックシステムは慢性心不全の治療標的となる可能性がある、の2点の知見が得られた。
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