研究課題/領域番号 |
20K08410
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
竹田 健史 金沢医科大学, 医学部, 助教 (90340009)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | Mule / 細胞内タンパク質品質管理 |
研究実績の概要 |
Chk1不活性化変異体(KM1-270)は野生型よりも迅速に細胞内で分解され、この分解経路にはMuleの特異的な結合が関与することを前年度に明らかにしたが、この現象はラット心筋由来細胞H9c2のみならず、ヒト由来のHEK293細胞やアフリカミドリザル由来COS-7細胞などの異種細胞株でも同様にMuleの結合を伴う急速な分解現象が観察された。種を越えた不活性変異体に特異的な分解に関わる未知因子を同定するために、KM1-270発現ベクターをHEK293細胞へ導入し、ベクターに由来する薬剤(G418)耐性能を指標にして、KM1-270変異体安定発現細胞(HEK-KM270sc)を樹立した。 次にKM1-270に予め付加したFLAGとV5タグに対する抗体を利用してダブルタグ法による免疫沈降を行い、この溶出サンプルの質量分析(LC-MS/MS)によって、7個の結合候補タンパクを同定した。そのうち、年度内に入手可能かつ特異性の高い3種の抗体(HSP70、RPS3、BiP)を用いてWB解析により、KM1-270変異体との結合を検証した。その結果、どれもKM1-270と結合することを確認できた。しかし、野生型コントロールも同レベルでこれら3種の因子と結合した。したがって、今回同定したタンパク質がChk1不活性変異体にのみ選択的に結合する因子とは言えず、この分解経路に寄与する主要な因子である可能性は低いと考えられた。 さらに昨年度に同定したMule内部に存在するChk1 binding region(CBR)を安定的に発現する細胞をH9c2とCOS-7からそれぞれ樹立した(H9c2CBRsc、COS7CBRsc)。このうち、COS-7細胞から樹立したCOS7CBRscクローンはH9c2CBRscよりも高いレベルで安定にCBRが発現していることをウェスタンブロット(WB)解析により確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遅れている大きな理由は、これまで定期的に入手可能だった市販の優良な抗体試薬の欠品や、タンパク吸着を抑えた表面加工を施したローバインディング仕様のフィルターチップの入荷が未定になるなど、微量なタンパク同定実験ではかかせないプラスチック製消耗品の遅延である。特に、免疫沈降実験の結果に影響する抗V5タグや抗Hisタグ抗体ビーズが途中でコロナ禍により納入未定となり、使用実績のない代替品への変更を余儀なくされたため、その抗体のクオリティーチェックや条件変更に予定外の時間がかかった。 急遽、代替品の変更に伴う抗体特異性の変化に加えて、今回樹立したH9c2CBRsc細胞クローンはどれもCBRの発現量が低いことがわかったため、質量分析に十分なサンプル量の確保が難しいと考え、非心筋由来細胞であるCOS-7細胞からもCBR安定発現細胞株(COS7CBRsc)を樹立することになった。結果的に時間はかかったが、樹立したCOS7CBRscは想定通りにH9c2CBRscよりも高いCBR発現量を有していた。
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今後の研究の推進方策 |
今回行ったKM1-270変異タンパクを用いたプロテオーム解析では僅か7種のタンパクしか同定できなかった。これは、サンプル量が足りなかった事の他に、この変異タンパク質を認識するMule複合体の結合力は予想よりも遥かに弱く、ダブルタグ法による2連続の免疫沈降ステップ中の洗浄過程によって、複合体が途中で解離してしまったことも考えられる。したがって本年度は、樹立したCBR安定発現細胞(COS7CBRsc、H9c2CBRsc)から抽出したサンプルの免疫沈降はシングルタグ法で行い、まずは非特異的結合因子の混入もある程度は許容した上で網羅的に同定する予定である。その後、実際にそれらの因子がCBRを介してMuleと結合するのかをin vivoで確認する。最後に、心筋細胞への酸化ストレス刺激における、それらCBR結合因子の発現変化や、遺伝子ノックダウンによる心筋細胞の影響を解析する。 上記の一連の実験により、CBRを介したMule複合体による心筋細胞内のタンパク質品質管理機構に関わる新規の因子が明らかになると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
・次年度使用額が生じた理由 本年度に予定していたプロテーム受託解析の追加依頼をキャンセルしたため。初回解析で同定されたペプチド数が想定より少なかったことから、次のプロテーム受託解析に依頼する免疫沈降サンプル処理の条件をいくつか改善する必要性が生じた。 ・使用計画 十分なサンプル量の確保、LC-MS/MSのショットガン解析に最適な免疫沈降用タグ抗体製品の厳選、そして抗体ビーズの洗浄条件の改良等を行なった後、速やかに当初予定のプロテーム受託解析を行う計画である。
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