慢性的な高血糖によって体内の過剰な糖が蛋白質と反応して終末糖化産物(AGEs)が蓄積し、心筋の蛋白質恒常性低下の一因となる。フルクトースおよびグルコースの代謝中間体であるグリセルアルデヒド(GA)は反応性が高く、蛋白質のアルギニンやリジン残基を修飾してGA-AGEsを形成する。GA-AGEsは比較的に毒性が強く、糖尿病性の病的心臓リモデリングと密接に関連していることが知られているが、その機序は不明な点が多く残されている。興味深いことに、GA投与により細胞内GA濃度を上昇させると、選択的オートファジーに重要な役割を果たすp62/SQSTM1が徐々に細胞内で高分子架橋体を形成し、時間と共に不溶性画分への移行が観察された。一方、Muleの蛋白レベルを調べると、ウェスタンブロット解析ではそのバンドがGA投与によって数時間で消失した。これらの結果は、細胞内蛋白質のGA修飾によって選択的オートファジーの抑制や、Muleのような特定のE3リガーゼが変性し、異常蛋白質の蓄積を誘導する可能性を示した。 これまでに、細胞内GAレベルの上昇がDNAストレス応答を惹起することが知られていることから、細胞周期の監視役であるCHK1や、そのN末端断片(CHK1-CPs)に着目し、それらのGA修飾による影響を解析した結果、CHK1-CPsや、そのキナーゼ活性を持たない変異体(d270KD)が、GAの影響を受けて、主としてユビキチン・プロテアソーム経路を介して迅速に分解されることを発見した。このGA応答性分解はMuleをノックダウンしても影響を受けないことから、GA修飾を認識して迅速に分解する独特なE3リガーゼが関与するユビキチン-プロテアソーム経路の存在を示唆しており、今回発見したd270KDはその分解経路を解析するために有用な分解基質モデルとなる可能性がある。
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