研究課題/領域番号 |
20K08414
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研究機関 | (財)蛋白質研究奨励会 |
研究代表者 |
南野 直人 (財)蛋白質研究奨励会, その他部局等, 研究員(移行) (50124839)
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研究分担者 |
海谷 啓之 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 室長 (40300975) [辞退]
白井 学 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 室長 (70294121)
若林 真樹 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, オープンイノベーションセンター, 室長 (70552024)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心房性ナトリウム利尿ペプチド / β-ANP / 生合成機序 / ANP前駆体 / 心筋細胞変性 / 心不全 / 高精度診断法 |
研究実績の概要 |
心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)は、前駆体proANP、活性型α-ANPとα-ANPの二量体β-ANPの3分子型で存在する。心不全発症により心筋細胞内に出現するβ-ANPとproANPの生合成機序の解明、心不全における測定意義を明らかにするため、令和3年度は①心不全46症例の心房心室の3分子型濃度の測定を完了し、②ANP分子型濃度と臨床情報に基づきRNA-seq解析試料を選択、実施し、③心房心室の3分子型免疫活性物質を解析した。 昨年度に高精度化したANP分子型測定法を用いてtotal BNP、β-ANP、proANP濃度を測定し、α-ANP濃度を算出した。各症例の心組織部位ごとのβ-ANP/α-ANPの高濃度・高率症例、中等度でβ-ANP低濃度症例、比較対照用の低濃度症例などに分類した。心不全の重症度、合併症などの臨床情報も踏まえてRNA-seq用試料を選択し、RNA抽出、品質検査を行い、心房13例、心室11例についてライブラリー作成、NGS解析を実施した。iDEPなどを用いて各群に特徴的な細胞内分子変動や経路を見出すことができた。一方、RNA-seq実施例でβ-ANPを高濃度・高率に含む心房組織、β-ANP陽性の心室組織のゲルロ過HPLC解析を行った。心房組織ではproANPより高分子量領域に、β-ANPとproANP測定系で同等の免疫活性を示す分画を認めた。心室組織でもβ-ANPに相当する免疫活性を見出した。 以上より、β-ANPを高率に産生する症例組織の分子特性を解明する情報基盤が確立でき、β-ANPやproANPの生成やジスリフィド結合の組換えに関わる可能性のある酵素やシャペロンをリスト化できた。また、proANPからβ-ANPへの生成経路における中間体の存在が示唆され、生合成複合体の解析が可能と推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、心房心室の3種のANP分子型濃度測定を完了し、α-ANPを含む各分子型濃度を決定した。このデータに基づき、ヒト心筋組織試料用いるRNA-seq解析、3種のANP分子型免疫活性物質の解析などの研究を全面的に展開した。 RNA-seqデータの解析では、心室の解析結果はβ-ANP/α-ANPの組織濃度に基づく症例分類にほぼ一致して特性解析が進められたので、これを継続する。一方、心房組織データの解析では、各群で多数の共通した変動が見出されているが、症例分類とは必ずしも一致しないため、臨床情報を踏まえて再解析する予定である。生合成機序については、想定した関連遺伝子よりβ-ANPの生成やproANP変換に関わるタンパク質(遺伝子)を絞り込むことが出来たが、さらに対象を拡大して解析を進めている。 心房組織のゲルロ過HPLC解析では、β-ANP、α-ANP、proBNPに加えて、微量ではあるが推定していた高分子型β-ANPが複数例で検出された。従来確認されていなかった心室組織でもβ-ANPとその分解物の存在が明らかとなった。これらは独自に開発したβ-ANP特異的測定系の成果である。以上の結果より、高分子型β-ANP前駆体の同定のみならず、β-ANP生合成複合体をproANP抗体などを用いて回収、解析できる可能性が見出された。 一方、ラット心筋細胞培養系を用いた評価実験は、担当者(海谷)が年度途中で退職した上、研究実施部署(生化学部)が廃部となり中止せざるえなくなった。上述のようにヒト心筋組織を用いた解析研究で、β-ANPの生合成機序、心不全症例の心筋組織各部位の分子特性について成果が得られたので、これらを総合して上記の進捗状況と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の研究より、質の高く均一なRNA-seqデータが得られたので、その解析作業を進める。iDEPを用いた、cluster解析、pathway解析、GSEA解析などの結果より、各疾患症例の心房、心室組織の分子的特徴をかなり明確にすることができた。特に心室組織では良好な結果が得られているので、疾患特性と分子型変動に関する解析を推進する。心房組織については、臨床情報などを踏まえて再解析を行い、心室と同程度の精度の高い結果を得る。一方、β-ANPの生合成に関わる切断酵素、ジスルフィド交換酵素、立体構造構成シャペロンについては、マクロな解析では変動に関わる分子経路を同定できていない。現在は150程度に絞っている対象遺伝子を拡大して候補遺伝子をリスト化する共に、ペプチド分泌関連タンパク質なども対象に含め、ANP分子型濃度の変化に関係する蛋白質(遺伝子)を精査、選別し、生合成機序の推定精度を高める。RNA-seqデータの解析は、分担研究者(白井)と協力して実施する。 免疫活性物質のHPLC解析では、心房にβ-ANPとproANP測定系で同等の免疫活性を示す高分子量β-ANPが見出されβ-ANP前駆体と推定されたので、先ずこの分子の同定を目指す。心室のβ-ANP免疫活性についても、分子レベルで同定を行う。一方、高分子量β-ANPはβ-ANP/proANP両方の免疫活性を示すため、組織からβ-ANPの生合成複合体をproANP/β-ANP/α-ANP抗体を組み合わせて回収し、構成タンパク質の解析を試みる。ペプチドやタンパク質の解析は、分担研究者(若林)が実施する。これらを総合して、所期の目的の達成を目指す。
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