高齢化に伴い収縮能の保持された心不全(いわゆる拡張不全)を発症する症例が劇的に増加し、心不全パンデミックとして大きな課題になっている。このような拡張不全と呼ばれる心不全病態に対して有効な治療法はほぼ無く、その主たる原因である心臓線維化の病態解明と治療法開発が臨床的に強く求められている。 マクロファージは炎症細胞の一つであり、心不全を発症した心筋組織に浸潤することが知られている。このような炎症シグナルは心臓線維化病態に深く関わると考えられているものの、その実態には不明な点が多い。本研究において研究代表者は拡張不全に対する治療ターゲットを同定すべく、心筋組織に浸潤するマクロファージが心臓線維化、心不全の病態において果たしている役割の解明に取り組んだ。本研究ではマウスを用いて横行大動脈縮窄術を施術することで、左心室への圧負荷により心肥大、心線維化、心不全モデルを作成した。これまでに心臓の低酸素領域に炎症惹起型マクロファージが集積すること、それらがサイトカインの一つであるオンコスタチンMを分泌していることを報告しており、引き続きこのマクロファージ亜集団が産生するサイトカインの解析を行った。その結果、心臓マクロファージがケモカインの一つであるC-C Motif Chemokine Ligand 19(CCL19)を強発現していること、それらが培養線維芽細胞におけるaSMA発現を抑制する役割を有していることを見出した。次にCCL19に対する中和抗体を投与して心臓病における役割を個体レベルで解析した。横行大動脈縮窄術2週間後の時点では、心肥大、線維化および左室収縮能に有意な影響は認められなかった。心臓リモデリングにおいてCCL19が果たしている役割については、引き続き病態モデルを用いた時系列的な解析を行う必要があると考えられた。
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