研究実績の概要 |
近年「脳・こころ」へのストレスが循環器疾患のリスクとなることが明らかとなりつつある。本研究では「脳・こころ」へのストレスがなぜ動脈硬化性疾患を引き起こすのか、解き明かすことを学術的「問い」とした。冠動脈にはそもそも自律神経系の分布は少ないことから、何らかの液性因子の関与があるのではないかと考え、新たな生理活性物質として脂質代謝物に注目した。本研究では「脳・こころ」へのストレス環境下において変動する血中脂質代謝物を探索し、その代謝物が動脈硬化疾患発症に関わる細胞群にどのような生理活性を持つか検討することを目的とした。また「脳・こころ」へのストレスによってなぜ血中脂質代謝物の変動が生じるかについても検討する計画である。これまでの予備検討の結果、多価不飽和脂肪酸DHA由来の特定の代謝物が抑うつ状態で低下する傾向を示し、さらに本代謝物は抗炎症作用を持つこと、ノルエピネフリン刺激によって血中の本代謝物濃度は低下することが見いだされており、本研究によって「脳・こころ」ストレスの動脈硬化性疾患発症への関与を解き明かす計画である。 本年度は【研究計画3】抑うつ状態などの「脳・こころ」へのストレスが、どのようなメカニズムで末梢血中の脂質代謝物に影響を与えるのか、その機序の検討を進めた。ストレス環境下では交感神経系の活性化が生じ、骨髄に分布する交感神経節後線維からモノアミン神経伝達物質が骨髄内に放出される。このようなストレスホルモン遊離が血中脂質代謝物に影響を与えているのではないかと仮説を立てた。ノルエピネフリン添加によって好中球から産生される4-HDHA, 4-oxoDHAの濃度低下が認められた。循環血液中における血球ターンオーバーは比較的早いことから、骨髄内で脂質代謝物産生能の変化した血球が循環血液中に放出されることで、結果として血中脂質代謝物が変動することが予想される。
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