研究課題/領域番号 |
20K08428
|
研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
中里 和彦 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (90363762)
|
研究分担者 |
杉本 浩一 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (30404867)
三阪 智史 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (50793080)
横川 哲朗 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (80748773)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 肺高血圧症 / 重症度 / 治療反応性 / 遺伝子 |
研究実績の概要 |
肺高血圧症の発症増悪や治療反応に患者による差異が生じるのは、肺高血圧症の発症メカニズムが個々人により少しずつ異なっているあるからである、という仮説の下に、造血幹細胞におけるJAK2-V617F変異に着目して、臨床的には肺高血圧患者における同遺伝子変異の発現頻度を、基礎的にはJAK(Janus Activating Kinase)2-V617F(機能獲得型)遺伝子変異マウスを用いた肺高血圧発症メカニズムの検討を計画した。 臨床的アプローチとしては、本学附属病院に入院した患者について、JAK2-V617F体細胞変異についてスクリーニング検査を行っている。 基礎的研究としては、本学輸血・移植学講座で保有しているJAK2-V617F遺伝子変異マウスを用いて肺高血圧の病態について解析を行っている。JAK2-V617Fマウスを10%の低酸素状態に2週間曝露して、肺高血圧症モデルを構築した。コントロールとしては野生型のlittermatesを用いる。心エコー法により肺血流加速時間、右室駆出率、三尖弁収縮期移動距離などを測定し、肺血圧の程度と右心機能について評価する。圧血行動態については、1.4 Frカテーテルを右室に挿入し、直接右室圧を測定する。マウスをsacrificeする 際には、心臓、肺、肝臓、脾臓、骨髄を摘出し、重量を測定する。肺高血圧に伴う右室肥大の程度についてはFulton index (右室重量/左室+心室中隔重量)およ び右室体重比で評価する。また、肺や心臓に関しては組織病理学的な検討を加える。Elastica Masson染色にて線維組織を、またα-SMAに対する免疫染色により 末梢肺動脈のリモデリング(筋性変化)を評価する。肺組織における髄外造血の有無についてHE染色により観察する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
入院した肺高血圧症患者の7.1%にJAK2-V617F変異クローン性造血が認められた。これはその他の心血管疾患における陽性率の1-2%に対して有意に多かった。 肺高血圧の発症にはJAK2変異のクローン性造血が何らかの関与をしているという仮説を立て、その機序を探る基礎研究を行っている。実験にはJAK2-V617F変異を持つトランスジェニックマウス(JAK2-V617F mice)を用いた。このマウスを10%の低酸素環境下で飼育すると正常マウスに比べて肺動脈収縮期圧がより上昇する。JAK2-V617F miceでは変異クローンの好中球が肺動脈周囲に浸潤しており、その中でJAK2の下流にあるSTAT3のリン酸化を介してALK1-Smad1/5/8シグナリングの活性化がみられ、肺動脈のリモデリングを促進していることが示された。さらに実際の臨床的状況に近づけるため、JAK2-V617F miceの骨髄を正常マウスに移植するモデルも構築して検証を追加したが、肺動脈圧の上昇や肺動脈壁の肥厚や線維化はJAK2-V617F miceと同様の所見が得られた。これらのことは、ゲノム染色体レベルの変異ではなく、造血幹細胞の体細胞遺伝子変異によっても肺動脈のリモデリングが惹起されることを意味する。
|
今後の研究の推進方策 |
遺伝子変異マウスを使用した基礎的研究では、JAK2-V617F変異(機能獲得型)を持つクローン性造血が、肺動脈周囲への好中球浸潤の増加を促し、JAK2の下流にあるSTAT3のリン酸化を介して肺動脈のリモデリングを促進し、肺高血圧症増悪の原因となりうること示したが、実際の臨床においても、肺高血圧症患者の7.1%にこの変異クローンが確認された。しかし、これは単一施設の小規模患者数での検討であり、実臨床との関連を探るためには、さらに大規模での確認が重要である。 今後、他施設との共同研究も視野において、JAK2変異のクローン性造血と肺動脈性肺高血圧症の発症や進展についての検討を進めたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究成果について科学雑誌に執筆掲載(有料)する予定があったが、その支払いが令和4年の4月以降になるため。
|