研究課題/領域番号 |
20K08435
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
名越 智古 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60408432)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ナトリウム利尿ペプチド / 心臓エネルギー代謝 / 保温効果 / 尿酸 |
研究実績の概要 |
インスリン抵抗性(IR)を主体とした心筋エネルギー代謝障害は心不全の病態生理の根幹ともいえる。一方、不全心から産生・分泌されるNa利尿ペプチド(NP)の骨格筋や脂肪組織におけるエネルギー代謝制御が注目されている。本研究では、NPが不全心における心臓エネルギー代謝障害を 改善する可能性を見出し、その詳細なメカニズムを明らかにする。 本年度は、自施設の心臓カテーテルデータベースを解析し、血漿BNP値と体温との関係について検討した。各種交絡因子を除外し、BNP値並びに心機能の体温に与える直接的な影響について、共分散構造解析を用いて評価した。説明因子であるBNPと心機能(左室駆出率)は予想通り、互いに負の相関関係を示した。一方、心機能低下は体温低下と有意に相関したが興味深いことに、BNP値上昇は、炎症反応とは独立して、体温上昇と有意に相関を示した。一連の結果は、左心機能低下に伴う血行動態悪化によって組織低灌流が生じ、体温が低下したことに対応し、不全心から大量に分泌されるNPが代償的に保温効果を発揮している可能性を示唆するものである。 また、本年度は心臓エネルギー代謝の下流にある尿酸代謝についての基礎研究も行った。抗がん剤であるドキソルビシンによる心筋傷害モデルを確立し、尿酸代謝を活性化させる中心的な役割を担う、キサンチンオキシダーゼ(XO)活性に注目し、検討した。ドキソルビシン投与により、左室機能は有意に低下したが、心臓組織XO活性は有意に上昇、これに伴い心臓組織での尿酸産生が有意に亢進していることが分かった。XO阻害薬を投与したところ、組織XO活性、これに伴う酸化ストレス、ならびに組織尿酸含有量が有意に低下し、これに伴い、左室機能も有意に改善することを報告した。不全心筋におけるエネルギー代謝障害に、XO活性が深く関わっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、概要欄に記載したように、心不全の病態生理の根幹である心臓エネルギー代謝障害について、NPならびにプリン代謝の観点からとらえ、基礎と臨床の両方から報告した。BNPと体温との関係性を心臓カテーテルデータベースを用いた共分散構造解析により示した。また心臓エネルギー代謝の下流に位置づけられるプリン代謝にも注目し、心筋傷害モデルにおける組織XO活性の重要性についても報告した。いずれも年度内に論文化されており、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
インスリン抵抗性モデルにおけるNPの臓器間ネットワークを介した全身エネルギー代謝改善効果について、主に高脂肪食負荷(HFD)マウスを用いて検討する。ANP持続投与により、各種脂肪組織ならびに肝臓の変化を組織学的・生化学的に調べる。そのうえで、実際にANPがインスリン抵抗性を改善するのか検討する。 また、心臓カテーテルデータベースを用い、NPのストレス応答に影響を及ぼす因子についても検討する。具体的には、心負荷に伴うBNP上昇度合いが、肥満の程度で変化するか、共分散構造解析を含めた各種統計手法を用い解明する。
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