インスリン抵抗性(IR)を主体とした心筋エネルギー代謝障害は心不全の病態生理の根幹ともいえる。一方、不全心から産生・分泌されるNa利尿ペプチド(NP)の骨格筋や脂肪組織におけるエネルギー代謝制御が注目されている。本研究では、NPが不全心における心臓エネルギー代謝障害を改善する可能性を見出し、その詳細なメカニズムを明らかにする。 昨年度に引き続き、NPと脂肪の関連を調べるために、13週間高脂肪食負荷肥満マウス(HFD)に3週間ANPを持続皮下投与したモデルを作成し、通常食を同期間与えたコントロールマウス(NFD)と比較した。まず、HFDの心臓組織においては、BNPのmRNA発現が有意に低下していることが分かった。それ故に、外部から投与したANPがより顕著に効果を発揮する可能性が考えられた。心臓組織IRをAkt活性を指標に評価したところ、ANPは全身の効果と同様(昨年度論文化)、HFD心の組織IRを改善していた。心筋微細構造を見ると、HFD心においてANPがミトコンドリアに隣接している脂肪滴形成を促進し、余剰な脂肪をtrapすることで、ミトコンドリアへの脂肪過負荷を軽減している可能性が示唆された。ランゲンドルフ虚血再灌流実験を施行したところ、HFD心は虚血再灌流後の心機能回復、心筋梗塞サイズはNFDと比較し、有意に悪化していたが、ANP投与群ではこれらがいずれも改善していた。虚血再灌流後の心組織微細構造を見てみると、ANPはHFD心のミトコンドリア構造崩壊を有意に緩和していた。さらにANPは虚血再灌流後のHFD心において、Aktシグナルを改善することで抗アポトーシス効果を発揮していることがわかった。 以上より、BNP産生が低下しているHFDにおいて、ANPの外部投与は、全身ならびに心臓局所IRを軽減し、脂肪組織と連動して肥満におけるエネルギー代謝障害を改善することが明らかとなった。
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