研究実績の概要 |
電気的ストーム(ES)家兎モデルを用いて、神経型NaチャネルNaV1.8の電気生理学的役割を追究する研究を行い、この病態心では、NaV1.8が心基部領域心筋細胞に発現すること、NaV1.8介在遅延Na電流の亢進による再分極遅延領域がアイランド様に出現すること、渦巻型旋回興奮波ローターがアイランド辺縁をさまよい運動することで、特殊な心電図波形を呈する心室頻拍Torsades de pointes(TdP)が形成されることが判明した。このモデル動物は、完全房室ブロック作成と除細動器埋め込みを組み合わせることで作成され、QT時間延長、TdPの反復発生、頻回の心室細動(VF)エピソードを特徴とする。これらの結果から、基質に依存したローターによって、心室頻拍が形成されるだけでなく、高周波数ローターへの転換、または興奮波分裂・自己増殖が惹起されやすくなると考えられる。当該年度、VF成立を促す因子を探索するために、ES家兎モデルの全遺伝子発現のプロファイリングを作成した。ES家兎5羽、健常家兎5羽の右室・心室中隔・左室心筋組織からRNAを抽出、Fragmented/Labeled cDNA作製後、GeneChipTM Rabbit Gene 1.0 ST Arrayキット(ThermoFisher)を用いて発現解析を行った。有意な発現増加または減少を示した変動遺伝子数は右室で31と47, 心室中隔で64と29, 左室で24と39であった。KEGGパスウェイ解析にて、発現増加及び減少遺伝子セットで各々、「Phagosome」と「Metabolic pathways」が共通して検出された。また、PDK4とacyl-CoA desaturase遺伝子が著しい発現変化を示した。代謝変化とVF成立との関連性を電気生理学的に追究する更なる検討によって、新たなVF治療予防法を提案する成果が得られると思われる。
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