研究課題
最終年度は、心筋細胞におけるAMPD3とBCKDHの相互制御機構について解析を行った。新生ラット初代心筋細胞(NRCM)において、1)AMPD3は既知の制御機構を介さずにBCKDH活性を抑制すること、2)BCKDHの発現抑制にてAMPD3の発現が転写レベルで亢進することを見出した。以上より、BCKDH発現が低下した不全心筋では、AMPD3の発現亢進を介してさらに分岐鎖アミノ酸(BCAA)代謝が低下する可能性が示唆された。また、NRCMにおいてBCKDHの発現抑制が脂肪酸代謝障害を誘導するメカニズムについて解析を行い、細胞質における脂肪酸代謝を制御する複数の分子が関与している可能性を見出した。研究全体を通じて、これまでミトコンドリアのみに局在すると考えられていたBCAA代謝の律速酵素であるBCKDHが、心筋ではミトコンドリア外、特に小胞体にも高発現し、さらに核酸代謝の律速酵素であるAMPD3によってその活性が制御されているというBCAA代謝の新しい制御機構を見出した。また、心筋のBCAA代謝と脂肪酸代謝が協調していることを明らかにした。さらに、糖尿病ラット(OLETF)心筋ではBCKDH発現低下およびAMPD3発現亢進により両者の結合に不均衡が生じており、心筋細胞におけるBCKDH-AMPD3発現不均衡の誘導は糖尿病心筋でみられる基質代謝障害を惹起した。以上より、BCKDH-AMPD3発現不均衡は糖尿病性心筋症の発症に寄与している可能性が示唆された。臨床研究では、心不全症例において血中BCAAバリンの低下が独立した予後規定因子であることを見出した。これらの結果は、BCAA代謝が心不全の新たな治療標的となる可能性を示唆している。今後は、AMPD3を介した心筋代謝の制御が心不全発症にどのように関与しているかについて、AMPD3ノックアウトマウスを用いて解析を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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