ヒト心筋症及び心不全に対する新規治療法を開発するため、それらの病態的特徴である持続的Ca2+濃度上昇に着目し、有力な候補蛋白質と考えられているメカノ センサーチャネルTRPV2の生理的役割、病態的意義を明確にすると共にTRPV2が心筋症 心不全の有力な治療標的になることを確定することが必要である。動物モデルを用いてTRPV2を抑制すると心筋虚血再灌流傷害及び大動脈狭窄心不全の発症及び進展が抑制することを前年度に明らかにしてきた。今年度はヒトTRPV2に対する外側認識抗体2種をファージディスプレー法にて作成しそれらの特性を調べた。ヒトTRPV2を特異的に低濃度で阻害することができたマウス抗体1種のエピトープを決定しヒト化抗体にした。また進行期心不全筋ジストロフィー患者を対象とした先進医療による特定臨床研究において明らかな心機能改善は認めなかったものの、プロトコール通りの治療が行えた13例においては、主要評価項目であるBNP変化率で、以前実施されたDuchenne型筋ジストロフィーにおけるcarvedilol臨床試験データを元にした帰無仮説を棄却し有意差ありという結果が得られた。また、試験期間中に薬物を投与していた患者では心不全死亡が無かったなど、心イベント抑制効果も示唆された。単核球表面のTRPV2は薬物投与により有意に減少していた。炎症マーカーPGD2が心筋症モデル動物で上昇していることを以前報告したが今回筋ジストロフィー患者の尿中においてPGD2代謝物が増加していること、薬物投与12週で減少することが新たに明らかになり、薬物が心不全に伴う炎症を抑制する作用があることが判明した。また薬物投与により尿中PGE3が増加することがわかり薬物は抗炎症作用があることが明らかとなった。
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