研究課題/領域番号 |
20K08464
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
高橋 大 山形大学, 医学部, 講師 (90400548)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | primary cilia / NPHP4 / 病的心肥大 / ITCH / Jade-1 |
研究実績の概要 |
高血圧性心疾患は、左室の圧負荷により左室リモデリングを来し、心不全発症の原因となる。1次線毛は、細胞膜上に生じる小さな不動性の突起物であり、機械 的刺激に対するセンサーとして働く。1次線毛は、線毛上に局在するレセプターや構造タンパク質により、Wntシグナルを始めとしたさまざまな細胞内シグナルを 調節する。Nephrocystin-4 (NPHP4)は1次線毛の構成タンパク質であり、胎生期には、心臓の左右軸の決定や非対称性の獲得に重要な役割を担う。NPHP4が、1次 線毛伸長障害を介して高血圧性心疾患を増悪するか検討するために、新生仔ラット心筋細胞やH9C2に対して心肥大刺激・酸化ストレスおよび炎症を惹起して検証を行った。NPHP4は、Wnt3a, angiotensin II, ET-1, IGF-1, TNFα刺激に対して、細胞質内でタンパク質発現が増加した。mRNAレベルでの変化はなかったが、膜タンパクを抽出したところ、膜蛋白の中では減少しており、細胞に刺激が加わると、細胞膜からtranslocationすることが判明した。培養心筋細胞でNPHP4をknockdownするとERK1/2やAKTのリン酸化が抑制された。また、Wnt刺激に対してβカテニンの発現が亢進した。NPHP4をノックダウンするとユビキチン転移酵素ITCHの発現量が低下した。NPHP4がWnt/βカテニンシグナルに影響する機序としてITCHの関連が示唆された。一方、心筋線維芽細胞でも実験をおこなったが、NPHP4をknockdownするとAKTのリン酸化は抑制された。NPHP4ノックアウトマウスを作成し、現在F2で繁殖を継続している。NPHP4の遺伝子多型が心腎症候群や心血管イベントと関連することをまとめ、論文を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一般住民健診受診者において、NPHP4の遺伝子多型が心血管イベントの先天的危険因子であることを同定し、論文を発表した(Heart and Vessels. 2022; 37: 673-682)。NPHP4はこれまで、心組織での発現の検証はほとんどされていなかったが、心筋細胞および心筋線維芽細胞いずれにも発現していることを確認した。これらの細胞に対して心肥大刺激・酸化ストレス刺激・炎症刺激を加えたところ、心筋細胞でより鋭敏にNPHP4が細胞膜から細胞質側にtranslocationすることを発見した。NPHP4はユビキ チン転移酵素Jade-1を介して、βカテニンのプロテアソーム分解を促進することでWntシグナルを抑制すると報告された。新生仔ラット心筋細胞にWnt3a刺激を加えたところ、NPHP4は一過性に発現が亢進した。次に、NPHP4をknockdownしたところ、心筋細胞においてJade1の発現は変化しなかった。しかし、NPHP4をノックダウンした心筋細胞に対してWnt3a刺激を加えたところβカテニンの発現が亢進し、myh7のmRNAレベルが亢進した。病的心肥大への関連は、Jade-1を介して経路以外を探索する必要性が示唆された。 一方、NPHP4をknockdownすることで、ERK1/2やAKTのリン酸化が促進された。In vivoでの検討で は、大動脈縮窄手術後のNPHP4の発現の変化を検証した。免疫染色では、大動脈縮窄手術を行うと左室乳頭筋周辺の心筋細胞において核や細胞質内でNPHP4の発現が増加している所見を得た。In vitroのデータを踏まえて、心筋細胞に刺激が加わると細胞膜から核へ移行する可能性が示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
NPHP4の遺伝子多型が、心腎症候群や心血管イベントと関連することをヒトサンプルデータで確認した。培養心筋細胞において、NPHP4は種々の刺激に対して反応する知見を得た。特に、Wnt3a刺激に対して、古典的Wnt/βカテニン経路を抑制した。既報を参照にNPHP4がJade1を介してWnt/βカテニンシグナルを抑制すると考えていたが、心筋細胞でJade-1に変化は乏しく、ほかの経路を検討していく。現段階では、NPHP4がユビキチン転移酵素ITCHの発現と関連することを発見しており、ITCHを介してWnt/βカテニンシグナルを抑制するか検討していく。また、同様に、ERK1/2やAKTのリン酸化を調節することがわかった。細胞実験において、心筋細胞肥大への影響を詳細に検討していく。 細胞実験の結果を踏まえて、NPHP4ノックアウトマウスを作成中である。NPHP4ノックアウトマウスは、男性不妊を引き起こしたためか、F0雄マウスは繁殖できなかった。一方、雌マウスも繁殖しにくかったが、F2マウスが生まれておりin vivoの実験の準備が整いつつある。予定通り、大動脈縮窄手術を同マウスに対して施行する。 NPHP4の機能は、ほとんどわかっていない。構造内にC2ドメイン結合配列がある。ユビキチン転移酵素ITCHはC2ドメインを有している。NPHP4とITCHの相互作用があるか、in vitroおよびin vivoで免疫沈降法やプルダウンアッセイで検討していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
残金は、少額なので、次年度の消耗品購入に使用する予定です。
|