研究課題/領域番号 |
20K08481
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
安川 秀雄 久留米大学, 医学部, 准教授 (60289361)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | STAT3 / 線維化 / 心外膜肥厚 / 繊維芽細胞 |
研究実績の概要 |
平滑筋特異的SOCSノックアウトマウスの表現系の解析 これまでに、平滑筋特異的SOCSノックアウトマウス(SOCS3-smKOマウス)は、野生型マウス(WTマウス)と比べ、生後6ヶ月以降に体重が優位に低下すること、優位に血圧が低下すること、心臓・体重比が優位に増大すること、優位な心筋間質の線維化と心外膜の肥厚を認めること、心エコーによる解析で、生後3ヶ月より、拡張能の低下を認めるようになることなどを明らかにしていた。また、Interleukin-6 (IL-6)投与後の心臓におけるSTAT3のリン酸化を免疫染色では、alpha-SMA陽性の平滑筋細胞よりはER-TR7陽性の繊維芽細胞において優位にSTAT3のリン酸化の亢進を認めた。さらに、生後 6ヶ月以降に、血中CRPは有意差を認めないが、血中IL-6がWTマウスに比べ 優位に高く、アルブミンが優位に低いことが確認された。心筋間質の線維化と心外膜の肥厚の機序を明らかにするために、線維化関連遺伝子のPCRアレイ解析を行ったところ、CTGF、PDGFbやTGFファミリー遺伝子の優位な発現上昇を認めた。このように、SOCS3-smKOマウスは、加齢に伴い心臓の線維化が亢進し心外膜肥厚と拡張障害を来しカヘキシー様の病態を呈することが明らかになった。 繊維芽細胞特異的SOCS3欠損マウスにおける梗塞後心不全モデルの解析 タモキシフェン誘導型Creマウスを用いて繊維芽細胞特異的SOCS3欠損マウス(SOCS3-fibKOマウス)を作成し、左前下降枝結紮により梗塞後心不全モデルを作成した。WTマウスに比べ死亡率に差はなかった。SOCS3-fibKOマウスは、梗塞後の左室・体重比が優位に小さく、心エコーによる左室リモデリングも抑制される傾向であった。シリウスレッド染色で梗塞巣の心筋線維化の亢進を認め、残存心筋が多い傾向であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
M22-CreでSOCS3を欠失したマウスを作成し、死亡率の増加、左室拡張能や収縮能の低下、心外膜肥厚や心筋線維化の亢進、血圧低下、体重減少、血中IL-6の増加、血中アルブミンの低下など多彩な表現型を明らかにできている。さらに、IL-6を投与することにより、繊維芽細胞において優位にSTAT3のリン酸化の亢進を認めており、全身の繊維芽細胞における慢性的なIL-6によるSTAT3の活性化が、これらの表現型の発生機序であることが示唆され、メカニズムの解析も進んでいるため。これらの結果より、加齢における心臓の恒常性の維持における繊維芽細胞のIL-6-STAT3経路とその制御系であるSOCS3の重要性が明らかになったため、繊維芽細胞特異的SOCS3欠損マウスを作成し、さらの解析を進めている。同マウスの作成に時間を要し、遺伝子発現低下の確認にも時間を要したため、進捗がやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
SOCS3-smKOマウスにIL-6を投与することにより、繊維芽細胞において優位にSTAT3のリン酸化の亢進を認めており、SOCS3の免疫染色を行うことで、繊維芽細胞の SOCS3の発現低下を確認する。 また、ヒトの収縮性心膜炎や心外膜炎の症例において、組織におけるSTAT3のリン酸化やSOCS3の発現を評価し、ヒトの病態においてもSOCS3発現の低下やSTAT3活性化の亢進について評価する。繊維芽細胞特異的SOCS3欠損マウスにおける梗塞後左室リモデリング抑制の機序についても解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
表現型の機序を明らかにするために行う免疫染色やPCRアレイなどの実験を次年度に行うことと、コロナ禍で学会や研究会の参加がほとんどオンライン参加であったことなどによる。次年度は、先述のマウス表現型のメカニズムを明らかにするための生化学および遺伝子発現の実験や学会発表、論文掲載などに使用する予定である。
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