研究実績の概要 |
遺伝性不整脈症候群のパネル解析の過程で、サンガー法では病的変異を同定できなかった遺伝性QT延長症候群(LQTS)家系(他の心外・心表現型なし)に、心筋カルシウムチャネル(Cav1.2)をコードするCACNA1C に新規R511Q変異を同定した。 本変異は心筋カルシウムチャネルの不活性化において重要な役割をはたすドメイン(D)Ⅰ-Ⅱリンカーに位置している。同部位の機能獲得変異は、LQTSに加えて他の心表現型や多彩な心外表現型を呈するTimothy syndrome (TS)や、LQTSに加えて他の心表現型を呈するcardiac only Timothy syndrome (COTS)をきたすことが報告されていたが、LQTSだけをきたす報告はなかった。そこで、DⅠ-Ⅱリンカーの変異の機能異常と表現型との関連を解明すべく、野生型CACNA1Cあるいは R511Q変異をtsA201細胞に発現させ、パッチクランプ法にて機能解析を行った。その結果、R511Q変異の発現電流値は野生型と変化なかったが (野生型: 58±5.0 pA/pF, n=20; 62±4.9 pA/pF, n=18, P=NS)、(電位依存性)不活性化速度の軽度の遅延 (時定数slow-野生型: 81.3±3.3 ms, 時定数slow-R511Q: 125.1±5.0 ms, P<0.01)により機能獲得をきたすことが判明した。 TSに関連する変異は不活性化の著明な遅延をきたし、一方、COTSに関連する変異は不活性化の軽度の遅延に加え発現電流値の減少をきたすが、R511Q変異では不活性化の軽度の遅延のみをきたすことから、表現型としてはLQTSのみを呈し他の心表現型や心外表現型を呈さないと考えられた。本研究は、CACNA1C DⅠ-Ⅱリンカーの構造機能連関、及び、機能異常と表現型との関連において新たな知見をもたらした。
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