研究課題
低分子量Gタンパク質の一つRhoAについて、独自に作製した心筋細胞特異的RhoAコンディショナルノックアウト(cKO)マウスを主に活用して研究を実施してきた。昨年度はRhoA cKOマウスが、コントロールマウスと比較してより早期に心不全となり、心筋細胞での老化が急速に進行すること、心筋細胞内のミトコンドリアの形態が異常になることを見出した。本年度はそのメカニズム解析を中心に実験を推進し、RhoA cKOマウスの心筋ではミトコンドリアの品質管理機構の一つであるマイトファジーが阻害されているため、障害を受けたミトコンドリアを処理することが出来ず形態異常を来したミトコンドリアが蓄積していることを明らかにした。マイトファジーには、パーキンソン病患者で減少することが見出されているParkinが重要な役割を果たしているが、RhoA cKOマウス心筋ではParkinの発現が有意に減少していることも突き止めた。ちなみに、パーキンソン病患者でも心不全になることがしばしば生じる。次に、RhoAの発現欠損により心筋細胞でParkinの発現が減少するメカニズムを検討した。RhoAはその下流分子Rho-キナーゼを介して、Parkinの発現を抑制しているn-Mycのリン酸化を促進することでn-Mycのユビキチン化とその分解を誘導し、Parkinの発現を維持する方向に作用していた。しかし、RhoAが欠損するとこのParkin発現維持機構が破綻し、Parkinの発現が減少することを明らかにした。来年度はParkinをRhoA cKOマウスやRhoAノックダウン培養心筋細胞に再発現させて、RhoA欠損による心機能低下・心不全やミトコンドリア形態異常がレスキューされるか検討する。
2: おおむね順調に進展している
心筋においてRhoAの発現を欠損させると、早期に心機能が低下して心不全となり、心筋細胞に早期老化所見を見出したこと、そのメカニズムとしてミトコンドリアのマイトファージーが阻害されていることを見出した。分子レベルではRhoAの欠損によりParkinの発現が減少し、その機序についても明らかにできた。以上より順調に、低分子量Gタンパク質RhoAが心筋の老化を制御する分子機構を解析している。
心筋において、ParkinがRhoAの下流で最重要な役割を果たしているか検証するために、上述のように、RhoA cKOマウスやRhoAノックダウン培養心筋細胞にParkinを再発現させてRhoA欠損による心機能低下・心不全やミトコンドリア形態異常がレスキューされるか解析する。具体的には、まず、培養心筋細胞株HL-1細胞で、RhoAをノックダウンした場合に生じるミトコンドリア異常、マイトファジー阻害が、Parkinのトランスフェクションにより改善されるか観察する。次に、RhoA cKOマウス個体の心臓でParkinを発現させるため、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)によるParkin発現系を構築し、AAV-ParkinをRhoA cKOマウスに導入してRhoA欠損による心機能低下・心不全およびミトコンドリアの形態異常が改善するか調べる。
RhoA発現の欠損により心筋での老化が進行するメカニズムの解析について想定よりスムーズに進行し、有用な結果が得られたため、予定していた金額より少なく実験を実施することが出来た。2021年度に余った予算については、2022年度に行うマウスを用いたin vivo実験で多額の費用が必要と見積もられるためその費用に充当する予定である。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
Cancer Sci
巻: 112 ページ: 4005~4012
10.1111/cas.15114
J Biochem
巻: 170 ページ: 577~585
10.1093/jb/mvab066
J Biol Chem
巻: 296 ページ: 100761
10.1016/j.jbc.2021.100761
Cancer Res
巻: 81 ページ: 2318~2331
10.1158/0008-5472.CAN-20-2331
http://www.shiga-med.ac.jp/~hqbioch2/