研究課題/領域番号 |
20K08492
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
植松 悦子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教務補佐員 (10352080)
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研究分担者 |
添木 武 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 特任教授 (60393211)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 循環器 / プロテアーゼ活性化受容体(PAR) / 心房細動 |
研究実績の概要 |
複数の凝固因子は血栓形成に寄与する一方で,Protease-activated receptors(PAR)を活性化し,炎症反応に関与することが知られている。活性型血液凝固X因子(FXa)はPAR2を介した慢性炎症機構に関係しているが,炎症を基盤とする心房細動の発生にも寄与している可能性がある。本研究では、PAR2シグナルは炎症作用・線維化促進作用等により心房リモデリングの進行を促進し心房細動を起こしやすくするという仮説を立て検証した。 まずPAR2欠損マウスおよび野生型マウスに浸透圧ミニポンプを用いて2を2週間投与し対照群との比較を行った。アンジオテンシン2投与後、PAR2欠損マウスでは野生型マウスに比べ心房細動誘発率は低く、心房におけるcollagen1および3のmRNAの発現が抑制されていた。次に事前に8時間の心房高頻度ペーシングが施行された自然高血圧ラットに、FXa阻害薬のリバロキサバン(2400 mg/kg餌/日)の経口投与を行い、ワルファリン(0.2 mg/kg餌/日)経口投与群、対照群との比較を行った。その結果、リバロキサバン投与群では、対照群、ワルファリン投与群に比べてTNF-a, TGF-bやcollagen1,および3の発現が有意に抑制されていた。また、リバロキサバン投与群では、ワルファリン投与群および対照群に比べて心房細動誘発率が有意に低かった。3か月間の長期投与後の組織学的な検討においても、リバロキサバン投与群ではワルファリン投与群および対照群に比べて心房の線維化が有意に抑制されていた。以上の結果より、FXa-PAR2シグナルは炎症を介した線維化促進作用等により心房リモデリングの進行を促進し心房細動を起こしやすくすることが明らかとなり、リバロキサバンはFXa経路を阻害し、心房の炎症反応と線維化を抑制することで心房細動の発症予防に役立つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PAR2欠損マウスおよび野生型マウスに対しアンジオテンシン2の持続的投与を施行し、PAR2の有無による生理学的・病理学的・生化学的変化の評価することに関しては、上述したように概ね順調に進んでいる。また、FXa阻害薬であるリバロキサバン、ワルファリンの経口投与による心房リモデリングや心房細動誘発率に対する効果に関しても概ね順調に進んでいる。しかしながら、培養心臓線維芽細胞・心筋細胞・肥満細胞・マクロファージなどにおけるPAR2シグナルの検討、骨髄特異的PAR-2欠損マウスと骨髄特異的PAR-2発現マウスを用いた心房・心室での炎症・線維化などの検討、HFpEFモデルや心筋梗塞モデルなど他の心不全モデルでの経口Xa阻害薬の効果の検証になど関してはまだ実験自体、開始されていない。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、野生型マウスおよびPAR2欠損マウスに対しアンジオテンシン2の持続的投与を施行し、心房・心室組織および浸潤炎症細胞でのPAR2を介した炎症所見を調べる。それらと並行して、骨髄特異的PAR-2欠損マウスと骨髄特異的PAR-2発現マウスを作成し、心房・心室の線維化、炎症性変化、並びに心房細動・心室細動の誘発率を調べ、コントロールマウスと比較する。また、ヒト心臓線維芽細胞、心筋細胞、肥満細胞およびマウロファージを培養し、PAR-2の発現を確認する。その上で、PAR-2のリガンドとなり得るXa因子、トリプターゼなどによる細胞増殖・肥大並びに細胞内シグナルを評価し、活性酸素や炎症性サイトカインの発現を調べる。さらに、心筋梗塞を作成したラットおよびHFpEFモデルラットに経口Xa阻害薬を投与し、心機能・心室リモデリングなどの改善効果がみられるかを生理学的・生化学的に評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的な物流の遅れと在庫不足が相まって、納品が予定よりも遅延したため年度内に支払いが終了せず次年度使用額が生じてしまった。現在はすべて納品済みであり、R3年4月に支払いは終了している。 R3年度は請求した研究費で研究を行っていく。
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