自然免疫応答の異常が慢性閉塞性肺疾患(COPD)およびその増悪病態形成に重要な役割を果たす可能性が示唆されるが、細胞内のDNA認識および制御機構の関与については未だによく分かっていない。本研究ではヒト気道上皮培養細胞(Beas 2B)および単球細胞(THP-1)を用いてcGAS-STING経路に対する酸化ストレスの影響を検討した。R3年度までの検討においてタバコ煙などの酸化ストレスがdsDNA刺激によるSTING経路を介したIFN-β産生を抑制すること示し、閉塞性肺疾患増悪病態では喫煙によるdsDNA認識機構の反応低下が関与する可能性が示唆された。 R4年度では臨床検体を用いた検討に重点を置いて検討を進めた。ヒト肺組織や喀痰細胞を用いてSTINGおよびリン酸化STINGの免疫染色を行い、気道上皮細胞や肺胞マクロファージへのSTINGの存在を確認した。健常者およびCOPD患者由来のヒト気道上皮初代培養細胞を用いた検討では、酸化ストレス刺激によるdsDNA刺激によるIFN-β産生抑制効果はCOPDのみならず健常者においても有意な抑制作用は認められず、また、当初の仮説とは相反してdsDNA刺激によるIFN-β産生は健常者に比し、COPDでは有意に増強していた。 今回、タバコ煙などの酸化ストレスがdsDNA刺激によるSTING経路を介したIFN-β産生を抑制する機構が存在することを示した。しかしながら、COPD気道上皮における慢性気道炎症病態の存在下ではdsDNA刺激によるIFN-β産生が亢進しており、健常者との反応性の違いが明らかとなった。今後、健常者とCOPD由来の細胞でのDNA刺激に対する自然免疫応答の違いを明らかにすることによりCOPD増悪病態の解明につながる可能性がある。
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