研究課題
感染症治療では患者予後向上のために適切な抗微生物治療をすることが必要である。しかし、我々の先行研究では適切な抗菌薬治療を受けた肺炎患者の11%は死亡することが明らかになり、重症・難治性呼吸器感染症では抗微生物薬が適切であっても予後不良となる患者が存在する。我々は感染症発症時の炎症反応に続発する免疫機能障害に着目し、重症・難治性呼吸器感染症である重症肺炎(市中肺炎、外科手術後の術後肺炎)、肺非結核性抗酸菌症の主要疾患である肺Mycobacterium avium complex (MAC)症患者検体を用いて予後良好/不良群の免疫状態の違いを明らかにすることで、新規免疫療法ストラテジーの構築に向けた基盤作成を目的に本研究を実施した。本研究で、市中肺炎と術後肺炎患者のリンパ球と好中球数の動態が生存例と死亡例では異なることが明らかになった(Sci Rep 2022)。市中肺炎患者での解析では、予後不良例では予後良好例に比べて、活性化マーカーの発現がCD4+ T細胞、CD8+ T細胞上でより多くみられた一方、共刺激分子の発現が予後不良例では低下した状態で推移することが明らかになった。肺MAC症患者では、健常人と比較してPD-1などの共抑制分子の発現が有意に高頻度にみられ、細胞分化やサイトカイン分泌に関わる転写因子の発現にも差があることが明らかになった。さらに肺MAC症では罹病期間が長期になるとサイトカイン分泌などの免疫細胞機能が低下する傾向がみられた。本研究では、最初の侵襲が大きい(感染が重症あるいは外科手術の侵襲度が高い)とその後に免疫細胞疲弊が起こりやすく、またMACのように病原体自体が比較的弱毒の場合は罹病期間が長いほど免疫細胞疲弊を来しやすい傾向がみられた。これらは重症・難治性呼吸器感染症患者の新たな免疫療法ストラテジーを構築するうえで重要な知見である。
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