研究課題
2年目となる本年度は、初年度で明らかとした骨髄細胞中のaldehyde dehydrogenase高発現細胞 (ALDHbr)のマウス肺線維症モデルに対する抗線維化作用について再現性確認、および適切な投与タイミングの検証を行った。Lineage-/ALDHbrは、肺線維症マウスの炎症期でなく線維化期に投与された場合、もっとも治療効果を発揮することを明らかとした。さらに我々は、メスマウスから得られたLineage-/ALDHbrをメスマウスに投与した場合にのみ、このような抗線維化作用を発揮することを明らかとした。すなわち、オスマウスからLineage-/ALDHbrを採取して投与した場合および、メスマウスから得られたLineage-/ALDHbrをオスマウスに投与した場合、このような抗線維化作用は確認されない。これらの研究成果は、Lineage-/ALDHbr細胞が臨床試験において有効性を発揮できなかった原因の解明につながる可能性がある。また、本研究によってLineage-/ALDHbr細胞が、今日まで有効な治療法のない肺線維症に対して有用な細胞治療ツールとなることを提示できる可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
初年度で明らかとした骨髄細胞中のLineage-/ALDHbr細胞 (10万細胞/マウス)を、ブレオマイシン肺線維症マウス (メス)の炎症期 (ブレオマイシン投与後 day3)ないしは線維化期 (ブレオマイシン投与後 day10)に経尾静脈投与した。抗炎症作用によって線維化を抑制する細胞集団であれば、炎症期に投与した際に強い抗線維化作用がもたらされるが、実際には線維化期に投与した場合にのみ抗線維化作用を発揮することが確認された。ここで我々は、臨床試験においてLineage-/ALDHbr投与が有効性を発揮できなかった原因として「Lineage+/ALDHbrが含まれていたこと」および、「疾患患者に性差の偏りがみられたこと」に着目した。初年度にLineage+/ALDHbrが抗線維化作用を発揮できなかったことは既に確認していたため、さらなる原因を追究するため、Lineage-/ALDHbrを「メスから採取し、メスマウスに投与」、「メスから採取し、オスマウスに投与」、「オスから採取し、オスマウスに投与」、「オスから採取し、メスマウスに投与」のそれぞれの実験を行った。結果として、「メスから採取し、メスマウスに投与」した際にのみ抗線維化作用が確認されることを明らかとした。
現時点までに、「メスLineage-/ALDHbrを、線維化期に投与されたメスマウスでのみ」肺線維症の抑制効果が得られている。この結果から、メスとオスでLineage-/ALDHbrが質的に異なる可能性がある。また、さらなる可能性として、細胞を投与される肺線維症マウス体内における性的要因、とくに性ホルモンの差異が抗線維化作用に影響を及ぼしている可能性が考えられる。これらの可能性を明らかとするため、Lineage-/ALDHbr細胞自体をメス vs. オスで比較する必要があり、それぞれの細胞をFACSで分取しRNAシークエンス解析に提出して比較していく。上記と並行して、Lineage-/ALDHbrの抗線維化作用がどのようにして発揮されていくのか明らかとする必要がある。Lineage-/ALDHbr細胞を投与されたメス肺線維症マウス肺を採取し、コントロールとしてLineage-/ALDHdim (ALDH低発現)細胞を投与されたメス肺線維症マウス肺を採取し、それぞれのRNAシークエンス解析を比較検討することで、Lineage-/ALDHbr細胞が抗線維化作用を示す機序を明らかとしたい。くわえて、mCherryタンパクを核内に発現するmCherryマウスをドナーに用いてドナー細胞とレシピエント細胞の識別を可能とすることで、移植されたドナー由来Lineage-/ALDHbr細胞が肺内に定着するかどうか、定着しているとすればどのような細胞に分化しているか、などを検証する。これら一連の結果をまとめ論文として国内外に発表する予定である。
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