研究実績の概要 |
近年、生体分子を網羅的に解析するオミクス解析の技術が急速に進展し、糖尿病、癌などの領域で有用な分子標的が数多く見つかっている。しかし希少疾患においては対象が限られることや予算の関係からオミクス解析の報告は極めて限定される。本研究では、申請者らが経験豊富なオミクス解析技術と肺胞微石症マウスモデルを用い、病態の分子基盤の解明・確立と臨床に直結するトランスレーショナルな成果を創出する。本研究の結果、当該技術が他の希少肺疾患の病態の分子基盤に関する研究の現状を打破する先駆技術と位置づけられ、希少難治性呼吸器疾患克服研究の推進に貢献することを目指して本研究を遂行した。 リン吸着剤の内服はこれまでに報告した低リン食療法と同様に十分に病態を改善する効果が得られた。一般に、リン摂取量とタンパク質摂取量は相関することから、タンパク質摂取量を減らさずにリン摂取量を減らすことができる点が今後のヒトへ応用により有効であると考えられた。次世代シークエンサーを用いたリピドミクスの手法で本疾患における肺の脂質代謝について解析をおこなった結果、15週齢のNpt2b欠損マウスの肺では、炎症により誘導されるCyclooxygenase (COX)-2の発現が亢進していた。またリピドミクス解析の結果、Npt2b欠損マウスではCOX-2の上流にある高度不飽和脂肪酸(Arachidonic acid,EPA, DHAの産生量がいずれも亢進していた。これらの現象はクエン酸第二鉄を投与した場合、肺内の微石の蓄積が顕著に低下とともにCOX-2の発現の低下や高度不飽和脂肪酸の低下も認められた。以上の結果から、Npt2bの欠損は肺内に微石の蓄積とCOX-2の発現上昇に伴う炎症性脂質メディエーターの産生亢進をもたらすが、これらはリン吸着剤の投与により抑制できることがわかった。 以上、本研究で肺胞微石症の病態がさらに明らかとなった。
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