研究実績の概要 |
特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)の肺上皮細胞では異常蛋白蓄積によるER(Endoplasmic Reticulum)ストレスが増加している。過剰なERストレスは細胞死、細胞老化を誘導し肺線維化を促進すると考えられている。ER選択的オートファジーのERファジーは、ERストレス応答の軽減により肺線維化を制御すると予想される。ERファジーの過程にはいくつかのアダプター蛋白、中でもTEX264が重要な役割を果たしていることが報告された。本研究ではヒト肺組織、分離培養細胞(気道上皮細胞、肺胞上皮細胞)、IPF病態におけるERファジーの役割をTEX264発現との関連から明らかとし、さらにIPFの新規治療開発の知見を得ることを目的とした。 公開されているマイクロアレイデータベースGSE47460を用いて、正常肺組織とIPF肺組織でのTEX264 RNA発現を比較した。Control 91例、IPF122例を比較するとIPF群で有意にTEX264 RNA発現が低下していた。 次に、肺癌手術検体を用いて、IPF肺組織のTEX264の蛋白発現を検討した。IPF肺組織、特に異常な気道上皮ではコントロールと比べTEX264発現が低下しており、ERファジーが低下していると考えられた。TEX264ノックダウンによるERファジー抑制は、ERストレス誘導上皮細胞死とTGF-β誘導筋線維芽細胞分化を促進した。一方、FAM134B, CCPG1についても同様に検討したが、いずれも線維芽細胞、気道上皮細胞の筋線維芽細胞分化、細胞死、細胞老化に影響を及ぼさなかった。IPF肺組織ではTEX264が低下し、ERファジーが低下していると考えられた。ERファジーの低下は、上皮細胞死、筋線維芽細胞分化を誘導し、線維化進展に重要な役割を果たしている可能性がある。
|