研究課題/領域番号 |
20K08530
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
遠藤 元誉 産業医科大学, 医学部, 教授 (40398243)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | eR1 / 癌幹細胞 |
研究実績の概要 |
eR1はRunx1の発現を制御しているエンハンサーであり、様々な組織幹細胞で活性化していることが明らかとなっている。本研究では、肺におけるeR1の活性化と肺組織幹細胞との関連について、遺伝子改変マウス、培養細胞などを用いて解析することを目的としている。本年度は昨年度見出したeR1活性化細胞の解析に最適と考えられるヒト肺癌細胞株(H446細胞)を用いて、癌幹細胞マーカーとeR1活性化の相関について解析を行った。eR1-miniP-GFPとコントロールとしてのHSPp-GFPをH446細胞に導入し、GFP陽性細胞の表現系を検討した。eR1-miniP-GFPを導入した細胞では肺癌細胞における幹細胞マーカーとして知られているCD24lowCD44high分画が濃縮された。一方、HSPp-GFPを導入した細胞ではそのような濃縮は見られなかった。また、eR1-miniP-GFPを導入した細胞のうちGFP陽性細胞とGFP陰性細胞をフローサイトメトリーを用いてソーティングし、それぞれの細胞における幹細胞関連遺伝子の発現を検討した。GFP陽性分画はGFP陰性分画と比較して、CD44、Oct4、SOX2の発現が上昇していた。次にそれらの細胞の幹細胞能を比較するために、sphere formation assayを行ったが、両者にはっきりとした差は見られなかった。以上より、肺癌細胞におけるeR1活性化細胞は癌幹細胞に特異的な遺伝子の発現上昇はみられるものの、一般的な癌幹細胞が有するような特性(腫瘍形成能)を必ずしも伴うわけではないことが明らかとなった。今後は肺癌細胞におけるeR1活性化細胞の特徴を明らかにするために、eR1活性化細胞のRNAシーケンスを行い、肺癌細胞におけるeR1活性化がどのような意義を有しているのかを明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は肺癌細胞におけるeR1活性化細胞の特徴について解析することができた。血球系細胞と異なりeR1活性化を肺癌細胞で観察するのは困難であったが、昨年度見出したeR1活性化を検討するのに適した細胞株を用いて解析を進めることができた。その結果、肺癌細胞におけるeR1活性化細胞は癌幹細胞マーカー関連遺伝子の発現は上昇しているものの、腫瘍形成能を有しているわけではなく、癌幹細胞そのものの性質を有しているわけではないことが明らかとなった。以上より、現在までの進捗は順調であると思われる。しかしながら、本年度で得られた結果は予想していた「eR1活性化細胞=組織幹細胞」を意味するものではなく、eR1活性化が他の機能を有している可能性を示唆しており、今後の研究の方向性を再考する必要があると考えている。現在、eR1トランスジェニックマウスを用いて肺のみならず様々な組織におけるeR1活性化の意義も解析中である。これまでの解析結果から、消化管組織では薬剤で傷害を与えた細胞の修復時にeR1活性化細胞が著しく増加していることから、肺においてもeR1の活性化は増殖や分化に関与している可能性も考えられる。次年度以降は、eR1活性化肺癌細胞のRNAシーケンス解析を行い、どのようなシグナルが活性化しているかを明らかにしeR1活性化の意義を明らかにする。さらに、肺癌細胞株に細胞分化を促進する薬剤(低分子化合物X)を添加しeR1活性化と細胞分化についても解析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた結果より、「eR1活性化細胞=組織幹細胞」ではないことが明らかとなった。一方で、他の組織における解析からeR1活性化細胞は組織傷害時において何らかの機能を有していると考えられる。eR1活性化の意義を明らかにするためには、eR1活性化細胞における活性化シグナルを解明する必要があると考えられる。今後行う研究としては、①eR1活性化細胞のRNAシーケンス、②eR1活性化細胞の増殖能、分化能の検討、③eR1活性化細胞と組織幹細胞の比較解析、④eR1活性化の条件探索を行う。①によりeR1活性化によって増強しているシグナルを解明する。②により肺においても他の組織と同様、傷害時の組織修復過程においてeR1活性化細胞が関与しているかどうか検討する。③では、eR1活性化細胞では幹細胞マーカー遺伝子の発現が上昇しているにも関わらず幹細胞特有の性質を有していない原因について解析する。④によって細胞におけるeR1活性化の条件が見出されれば、eR1活性化を応用した組織修復法開発につながる可能性を有している。その他、eR1トランスジェニックマウスを用いた解析にて、肺におけるeR1活性化細胞がどの細胞であるのか詳細に解析する。また、申請者は細胞分化を促進する低分子化合物Xを有している。低分子化合物XがeR1発現細胞にどのように影響をするのか、低分子化合物XがeR1の活性化に関与するかについても検討する予定である。
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