研究実績の概要 |
がん免疫療法ではがん細胞を特異的に攻撃できるCD8陽性T細胞が重要な役割を担う。しかし、CD8陽性T細胞が慢性的ながん抗原刺激によって疲弊して機能不全になった場合には、抗PD-1抗体などの免疫療法の効果が低下する。公開されている肺がんの腫瘍内浸潤リンパ球のデータより、CD8陽性T細胞が疲弊化する際に発現するマーカーであるPD-1, CD39, TIM-3とTOX1, TOX2の発現は正の相関関係にあった。本研究では非小細胞肺がんにおいて、ヒトCD8陽性T細胞が疲弊する分子機構を様々な転写因子および、主にTOX1およびTOX2の役割を明確にすることによって解明する。 ChIP-seqおよびATAC-seqの報告や一昨年行ったレポーターアッセイの結果などから、CD8陽性T細胞の活性化から疲弊化していく過程で関与する主要な転写因子の役割が明らかになってきた。ヒトの検体解析のみならず、マウスの担がん実験による解析も進行中であり、肺がん細胞株LL/Cや3LLなどを使用して皮下移植モデルと尾静脈投与モデルを作製し、腫瘍内浸潤リンパ球のCD8陽性T細胞の特徴的な転写因子の発現解析を進めている。加えて、2021年度の先進ゲノム支援に採択されたことにより、担がんマウスの腫瘍内浸潤リンパ球のCD8陽性T細胞における転写因子Tbet陽性細胞を分取して、2検体のscRNA-seqのデータを得た。コントロール群と抗PD-1抗体投与群の比較、およびTOX1とTOX2を中心とした様々な転写因子の発現の強弱に応じて詳細な解析を進める。
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