非小細胞肺がん検体の腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)を用いた解析の結果、CD8陽性T細胞の割合と活性化を示すPD-1の発現強度は正の相関関係を示した。また、TCGAのRNA-seqのデータからCD8の発現およびPD-1の発現が高い場合に高発現する転写因子としてT-betとEomesが上位にランク付けされた。in vitroで抗CD3抗体を用いたTCR刺激によって活性化したCD8陽性T細胞では、T-betやEOMESの発現が上昇し、これはCD3抗体の濃度依存的であることが分かった。また、自己抗原や外来抗原ペプチドを用いた実験からもTCRの親和性の強度によってT-betやEOMESの発現が変化することが分かった。重要だとされるTCRのシグナル経路は主に5経路あるが、これらのシグナル阻害剤を用いた実験によってT-betの発現ではNFAT経路が重要な働きを担っていることが明らかになった。一方、非小細胞肺がん検体のATAC-seq、RNA-seqを行ったところ、疲弊化したCD8陽性T細胞では転写因子TOX1、TOX2の発現がナイーブCD8陽性T細胞に比べて有意に高いことが分かった。さらに、公開されている肺がんTILのシングルRNA-seqのデータを解析した。CD8陽性T細胞が疲弊化した場合には、T-betやEOMESの発現が低下し、転写因子TOX1およびTOX2の発現が上昇していた。以上の解析によって、ヒト肺がん検体でのCD8陽性T細胞が活性化、疲弊化する際に発現が大きく変化する代表的な転写因子が明らかになった。さらに、担がんマウスを用いて上記の転写因子の発現の関係性を明らかにするため、それぞれの転写因子のレポーターマウスを入手、作製して交配し、TIL内で活性化・疲弊化しているCD8陽性T細胞を経時的に分取してscRNA-seq解析を進めており、ChIPアッセイなども検討中である。
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