金属によるヒト気道平滑筋細胞のIL-6産生とステロイドの抑制効果についての研究を行っている。その背景には、気道の慢性炎症を病態とする喘息のうち、金属を取り扱う業務に従事している人に見られる職業性喘息があるが、その発症機序を探索することにより、職業性喘息のみならずその他の気管支喘息患者の治療の一助になる知見を得ることを目的としている。 気管支平滑筋細胞を培養し、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、亜鉛、クロムの低濃度~高濃度で刺激をすることにより、気管支平滑筋細胞からのIL-6の産生を測定した。IL-6は難治性喘息に関与する気道炎症を惹起させる因子として選択した。その結果、0.3mMの濃度でニッケル、コバルトで有意にIL-6の産生が亢進したことを発見した。このIL-6の産生亢進は、IL-6産生のどの段階から起こっているか調べるために、ニッケル、コバルトの刺激あり/なしでのIL-6のmRNAをリアルタイムRT-PCRで測定したところ、ニッケル、コバルトの刺激でIL-6 mRNAの発現が亢進していたので、IL-6の転写レベルで亢進していることが分かった。さらに、ニッケル、コバルトの刺激を細胞のどこで感知するか調べるために、酸を感知するレセプターであるOGR1を、OGR1に特異的なsiRNAを細胞にトランスフェクションさせ、OGR1ノックダウン細胞を作成した。このOGR1ノックダウン細胞にニッケル、コバルト刺激するとIL-6の産生が抑制されたため、ニッケル、コバルトの刺激の感知にはOGR1が関与していることが明らかになった。また、一般に難治性喘息ではステロイドの効果は乏しいとされるが、ステロイド(デキサメサゾン)を投与すると、IL-6産生亢進を抑制した。 これまでに得た知見を、令和2年(2021年)9月21日から行われた第60回日本呼吸器学会学術集会で発表した。
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