研究実績の概要 |
本研究の目的は、「骨髄異形成症候群(MDS)に続発する肺胞蛋白症(PAP)」(以下、MDS-SPAP)のドライバー遺伝子変異を確定させることである。このMDS-SPAPは生存期間中央値17か月、2年生存率42%で、自己免疫性PAP(いわゆる通常のPAP)と比較しても著しく予後不良な疾患である。これまで我々の研究から、続発性PAP診断時の%DLcoが50%以下、ステロイド治療下が死亡リスク因子に挙げてきたが、病因に関わる研究は皆無で本研究の重要性は非常に高い。 稀少肺疾患を対象として本研究では、2020年~2022年の3年間をMDS-SPAP症例の集積期間としていたが、解析可能な新規症例数が予想外に少なかった。本疾患の罹患率は100万人あたり1~2人と推測されており、この20年間で年間新規症例数は2~3例を調査していた。しかし、MDS-SPAP診断時には全身状態が不良で研究同意が難しい症例も多く、十分な症例数で解析することができなかった。プロジェクト1, 2として13例のMDS-SPAP症例の遺伝子変異を解析した。21個の遺伝子変異が確認され、そのうちU2AF1とASXL1が31%(4/13)でみられ、次にTET2, ZRSR2, STAG2が23%(3/13)にみとめられていた。これらはSPAPを伴わないMDS自体にも遺伝子変異としてみられるものであるが、U2AF1はMDSの6-8%程度の頻度である。そのため、RNAスプライシングに関連するU2AF1がMDS-SPAPのドライバー遺伝子の候補となる可能性が考えられた。本来であれば、プロジェクト3として新規MDS-SPAP症例の造血幹細胞移植治療前後での肺胞マクロファージでの解析を行いたかったのであるが、研究期間を延長したにもかかわらず対象症例が現れず施行できなかった。 しかし、本研究でのMDS-SPAPのドライバー遺伝子変異の候補はU2AF1を筆頭に、エピジェネシス制御に関わるASXL1が病因に関連している可能性は示唆され、今後のさらなる研究に繋がる成果にはなったと思われる。
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