研究実績の概要 |
本研究では、気道上皮細胞における“炎症記憶”のアレルギー性気道炎症における役割を解明することを目的とした。チリダニ抗原(HDM)により気道炎症を起こした野生型マウスの気道上皮細胞における遺伝子発現の経時的変化を定量的PCRで解析したところ、Day9をピークに転写因子STAT3関連遺伝子群の発現上昇を見出した。 そこで、ドキシサイクリン誘導性気道上皮特異的STAT3欠損マウス(STAT3-cKO)を作成し、昨年度までにアレルギー性気道炎症における上皮に発現するSTAT3の役割を明らかにした。まず、STAT3-cKOマウスでは対照マウス(STAT3-WT)に比べ、HDM誘導性アレルギー性気道炎症が増悪したことから、上皮STAT3がアレルギー性気道炎症の抑制に重要な働きをしていることを示した。次に、HDMを経気道投与したSTAT3-cKOマウスとSTAT3-WTマウスから単離した気道上皮細胞のRNAシークエンス解析を行った。同定された発現変動遺伝子のうち、最も有意にSTAT3-WTで発現が上昇したSCD1(stearoyl-CoA desaturase 1)について阻害剤による抑制実験を行い、HDM誘導性気道炎症が増悪することを見出した。以上より、SCD1がHDM誘導性アレルギー性気道炎症において抑制的に働くことが示唆された。(Nishimura N, Yokota M et al,Allergol Int.2022) 本年度は、air-liquid interface培養によるマウス気道上皮の初代培養細胞を用いて、SCD1阻害剤が気道上皮細胞シートの経上皮電気抵抗を低下させることを見出した。 以上の結果より、アレルギー性気道炎症において、STAT3-SCD1軸が炎症を抑制することが示され、SCD1は気道上皮細胞のバリア機能を介し肺の恒常性維持に寄与している可能性が示唆された。
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