研究課題/領域番号 |
20K08575
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐藤 匡 順天堂大学, 医学部, 准教授 (10596993)
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研究分担者 |
瀬山 邦明 順天堂大学, 医学部, 教授 (10226681)
田島 健 順天堂大学, 医学部, 准教授 (50384102)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 新型タバコ / プロピレングリコール / グリセロール / アポトーシス / ヒト小気道上皮細胞 / 慢性閉塞性肺疾患(COPD) / DNA傷害 |
研究実績の概要 |
プロピレングリコール(PG)とグリセロール(Gly)は従来食品添加物などに使用され、その安全性は検証されてきたが、吸入した場合の安全性は確認されないまま電子タバコや加熱式タバコ等の新型タバコで使用されている。新型タバコによる生体への悪影響を示唆する論文が増加してきているが、新型タバコのエアロゾル中にはPGとGly以外にもアクロレインやホルムアルデヒドなどのアルデヒド類が含まれていることが報告されている。PGやGlyの直接の生体への影響を検証するにはそれらの成分の影響が排除されるべきであり、また小気道細胞へのPGとGlyの影響はこれまで検証されていないことから、今回我々はヒト小気道上皮細胞(SAECs)にPGとGlyを直接曝露することによる影響を検証した。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者由来のSAECs(COPD-SAECs)にも同様の実験を行った。その結果、SAECsのPG曝露群では濃度依存性に細胞増殖、細胞生存率が低下した。PG曝露群ではDNA障害も強く認め、細胞周期の評価ではG1期細胞の増加、p21タンパクの発現を多く認めた。アポトーシスの評価ではカスパーゼ3/7活性細胞数の増加とcleaved-PARP1タンパクの発現増加もPG曝露群で認めた。これらの変化はGly曝露群では認めないか、変化があってもわずかであった。また、COPD-SAECsではSAECsと比較して細胞増殖、細胞生存率で同等レベルの低下を認め、DNA障害細胞とアポトーシス細胞の割合は優位に増加していた。PGがSAECsに対してDNA障害を起こし、細胞周期をG1期で停止することで細胞増殖を抑制し、最終的にアポトーシスを誘導し、それはCOPD患者由来の細胞においてより強調されるという本研究で得られた知見は、新型タバコの使用が従来のタバコと比較して安全と結論づけられないことを示したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題のうち、マウスに対する慢性タバコ煙および加熱式タバコエアロゾル曝露実験に関しては、加熱式タバコによる肺気腫形成機序の詳細な解明をおこない、すでにAmerican Journal of Physiology Lung Cellular and Molecular Physiology誌にin pressとなっている。また、ヒト小気道上皮細胞を用いたin vitro研究についても、今回報告するように、動物実験を補完する結果が得られており、現在英文論文投稿中である。また、一連の実験を支えているタバコ煙曝露装置SG-300については、製造元である柴田科学との連携が継続され、定期的なメンテナンスを実施することができており、実験を計画的に進捗することができた。以上の理由から本研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で得られたこれまでの結果から、IQOSをはじめとする加熱式タバコの長期使用にともなう健康被害、とりわけ呼吸器系に対する傷害が強く懸念される。本課題で行ったマウスへの加熱式タバコエアロゾル長期曝露実験で、従来のタバコ使用と同様の肺気腫病態が起こることが示されたが、肺気腫に至るメカニズムは従来のタバコと加熱式タバコでは異なる可能性が示唆されている。そうした差異が、煙あるいはエアロゾルに含有される成分の違いによって生じる可能性について、今年度報告した細胞実験のさらなる詳細な解析、さらに、マウスを用いた曝露実験についても時系列での解析を追加し、マウス肺組織中の特定の細胞群(例えば気道上皮細胞)に焦点を当てた解析を行うことで、今後臨床的にも問題となりうる加熱式タバコの長期使用による肺傷害に対する治療戦略を検討する端緒としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては、引き続き実験助手雇用のための人件費、さらに昨年度より多くの実験消耗品の支出があったため、50万円の前倒し請求を行い、研究費用を確保することができた。年明けから想定した消耗品による支出がやや抑えられたため、結果として翌年へ繰り越す残高が生じることとなったが、年度全体としては支出が大きい結果となった。次年度においては、引き続き実験助手雇用のための人件費および実験消耗品費への使用を予定している。
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