研究実績の概要 |
抗好中球細胞質抗体 (ANCA) 関連血管炎 (AAV) は,病原性自己抗体の産生とともに臓器障害が引き起こされる代表的な自己免疫疾患である. 臨床的に糸球体腎炎や肺病変等の症状を呈し, 自然免疫機構である好中球細胞外トラップ (NETs) の制御が関与する. 病原性自己抗体であるANCAが好中球に作用して過剰なNETsと血管内皮障害を誘導し壊死性血管炎を引き起こす. NETsは感染症時には侵入微生物を効率よく殺菌する免疫システムであると同時に,特定の分子によって制御される能動的な壊死(ネクローシス)の一形態であるが, ANCAを介したNET形成のシグナル伝達経路は不明である. 制御された壊死を司る分子の一つであるシクロフィリンD(CypD)は, 活性酸素種(ROS)などの刺激によりミトコンドリアの膜透過性遷移孔 (mPTP) を開口させ, ミトコンドリア内から過剰なROSやシトクロムc (Cyt c)を細胞質へ流出させネクローシスを引き起こす. 脳や腎臓の虚血再灌流傷害モデル動物において, CypDの阻害薬や遺伝子的除去が壊死抑制を介して臓器を保護することが示され, 様々な疾患にプログラムネクローシスを標的とする治療が注目されている. 本研究では, ANCA刺激により誘発されるNET形成, ならびにANCA-NETsによる血管内皮障害がCypD依存性にネクローシスが起こり, AAVの壊死性血管炎の病態形成に関与していると仮説を立てた. 一方, 慢性炎症を背景とするSLEがCypDシグナルを含めた壊死病態に関与するかを解析することで自己免疫疾患におけるCypDの役割を評価した。
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今後の研究の推進方策 |
In vitroの実験により, 自己抗体ANCAにより誘導されるCypDを介したNETs形成, 血管内皮細胞障害に起因することが示唆された. CypDの役割をモデル動物で検証したところ, ANCA移入モデルでは, CypD遺伝子欠損マウスでNETs形成, 壊死病変, ならびに臓器障害が軽減し, ANCA産生自然発症モデルにおいてもCypD遺伝子除去により臓器病変が改善した. しかし, MPO-ANCAの産生低下は見らず, CypDの獲得免疫系へ影響は少ないことが示唆された. CypDは自己免疫病態の中でも, NETsがエフェクターとして作用する壊死病態に関与することが示唆された. AAVの治療の主体は強力な免疫抑制治療で病態の上流を制御することは可能であるが, 免疫抑制による感染症死が多いこと, 壊死病態を制御できないために臓器障害が残ることが課題である. 本研究では, CypDを標的とした治療が, 免疫抑制を起こさずに, 血管局所で誘導される壊死を分子メカニズム的に制御することで血管炎病態を改善する可能性を示した. 今後は、他の自己免疫疾患として代表的なSLEモデルマウスにおけるCypDの役割を検証し、自己免疫疾患全体でのCypDの位置づけを検証し、新たな治療標的として論文報告する。
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