研究課題/領域番号 |
20K08582
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
藤田 浩樹 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (30333933)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 糖尿病性腎症 / GLP-1受容体シグナル / 血管平滑筋 / 腎線維化 / Akita糖尿病マウスモデル |
研究実績の概要 |
血管平滑筋(SM)で発現するCreマウスとLoxP(Floxed)Glp1rマウスを用いたCre-loxP systemにより、血管平滑筋特異的GLP-1受容体欠損マウス(Glp1r SM-/- C57BL/6)を作製した後、同じストレインで進行性糖尿病性腎症の発症に抵抗性を示すC57BL/6-Akita糖尿病マウスと交配することでGlp1r SM-/- C57BL/6-Akitaマウスの作製を行い、腎組織病変と腎機能の変化について経時的な観察を進めてきた。まず、対照群のSM-Cre C57BL/6-Akitaオスマウスに比して、Glp1r SM-/- C57BL/6-Akitaオスマウスでは、経時的にアルブミン尿が増加するとともに、30週齢時にFITC-inulin single injection法にて測定を行った糸球体濾過率は上昇し、糸球体高血圧の増強を反映した腎生理学的変化が生じていると考えられた。30週齢時の腎組織病変の解析では、Glp1r SM-/- C57BL/6-Akitaオスマウスにおける糖尿病性糸球体硬化病変の進行、腎間質線維化の進行が観察され、電顕でも糸球体基底膜の肥厚など糸球体病変の進行が観察された。さらに、30週齢のGlp1r SM-/- C57BL/6-Akitaオスマウスでは収縮期血圧の上昇がみられ、血管平滑筋において抗酸化作用を発揮するGLP-1受容体シグナルの減少から、同部位での活性酸素が増加し、それに伴う血管内皮でのNitric oxide(NO)の減少により、血管収縮が引き起こされたと考察される。同様に腎臓内血管平滑筋での酸化ストレスの増加も予想され、腎臓におけるNOや活性酸素レベルを測定することにより、血管平滑筋GLP-1受容体シグナルに関連した抗酸化作用が糖尿病腎線維化の進行抑制にどのような役割を果たしているのか解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は糸球体病変の進行を特徴とするKK/Ta-Akitaマウスと間質の線維化の進行を特徴とするCD-1-Akitaマウスの2種類のストレインのAkita糖尿病マウスを有している。既に作製したGlp1r SM-/- C57BL/6-AkitaとKK/Ta-wild-type(WT)およびCD-1-WTマウス、またはGlp1r SM-/- C57BL/6-WTとKK/Ta-AkitaおよびCD-1-Akitaマウスとのバッククロスにより、KK/TaおよびCD-1バックグラウンドのGlp1r SM-/- KK/Ta-AkitaマウスとGlp1r SM-/- CD-1-Akitaマウスを作製し、さらなる腎病変の進行について解析を進めることを計画していたが、妊孕性が低く、目的のマウスが得られがたい状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果から、糖尿病状態下での血管平滑筋GLP-1受容体シグナルの減少は全身性の血圧上昇のみならず、腎臓においても糸球体高血圧の増強や腎線維化の進行に関与していることが明らかとなった。加えて、進行性糖尿病性腎症の発症に抵抗性を示すマウスストレインにおいて、血管平滑筋特異的GLP-1受容体欠損は進行性腎症発症への感受性を高めることも示された。これらの背景にある分子メカニズムを解明するため、血管平滑筋GLP-1受容体シグナルの抗酸化作用に着目し、腎臓におけるNOや活性酸素レベルの測定を行うとともに、GLP-1受容体シグナルの主要なセカンドメッセンジャーであるcyclic AMPやprotein kinase A活性についても解析する予定である。さらに、少し遅れてはいるが、糸球体病変の進行を特徴とするKK/Ta-Akitaマウスと間質の線維化の進行を特徴とするCD-1-Akitaマウスの他のストレインのAkita糖尿病マウスにおいて血管平滑筋特異的にGLP-1受容体を欠損させることで、さらなる腎病変の進行が引き起こされるのか研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
cAMPおよびPKAの測定に遅れが生じており、これらの測定に用いるキット購入のため、次年度使用額が生じた。
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