血管平滑筋(smooth muscle: SM)で発現するCreマウスとLoxP(Floxed)Glp1rマウスを用いたCre-loxP systemにより、血管平滑筋特異的GLP-1受容体欠損マウス(Glp1r SM-/- C57BL/6)を作製した後、同じストレインで進行性糖尿病性腎症の発症に抵抗性を示すC57BL/6-Akita糖尿病マウスと交配することでGlp1r SM-/- C57BL/6-Akitaマウスの作製を行い、腎組織病変と腎機能の変化について経時的な観察を進めてきた。対照群のSM-Cre C57BL/6-Akitaオスマウスに比して、Glp1r SM-/- C57BL/6-Akitaオスマウスでは、経時的にアルブミン尿が増加するとともに、30週齢時にFITC-inulin single injection法にて測定した糸球体濾過率は上昇し、糸球体高血圧の増強を示唆する結果であった。30週齢時のGlp1r SM-/- C57BL/6-Akitaオスマウスにおける電顕による解析では、糸球体基底膜の肥厚や足突起の融合・消失など糖尿病性糸球体病変の進行、近位尿細管におけるミトコンドリアの腫大化や断片化などの形態異常が観察された。また、腎臓内小葉間動脈壁の肥厚性変化など動脈硬化性変化も観察された。同マウスの腎臓では、DHE染色により血管壁での活性酸素の増加がみられ、DAF-2灌流法により血管内皮でのnitric oxide(NO)の減少が観察されたことから、血管平滑筋における抗酸化作用を発揮するGLP-1受容体シグナルの低下に伴うNOの減少により、血管拡張不全が引き起こされ、同マウスでの血圧上昇を惹起したと考えられる。こうした血管平滑筋での酸化ストレスの増加は間質にも波及しており、腎間質線維化の進行への関与が示唆された。
|