研究課題
血液透析患者は過剰な体液を血漿中から限外濾過によって除去されるため、循環血漿量が減少し血圧が低下しやすい。身体は血管外の細胞外液を血管内へ移動させ、血圧を維持しようとする。この作用をリフィリングという。リフィリングは細胞外液がリンパ管を通じて血管内へ戻ると考えられる。リンパ管は血管と異なり、自身の蠕動運動および筋肉などの刺激によって機能を発揮する。血液透析中に軽度の運動を負荷することにより、リフィリングレートを上昇させ血圧低下を防止することができるという仮説を設定・検証する。必要な機材である透析中の循環血液量を計測する循環血液量計(BML)、ベッド上で使用するエルゴメータ(てらすエルゴ)、体成分分析装置(InBody)を年度中にそろえることが適った。リハビリテーション科・看護部と協調し、運動療法を腎臓リハビリテーションガイドラインに沿った形で行えるよう整備した。テストケースとして、心機能・骨関節の運動機能に異常なく、透析間体重変化および血圧低下が著しくない62歳女性に、研究参加の同意を得て安全性・妥当性を検証した。InBodyにて、体水分量の測定を行った。リハビリテーション科により、Karvonen法による目標心拍数を決定した。運動開始前にストレッチによる準備運動を行い、てらすエルゴにてBorg係数11~13の間で目標心拍数を超えない負荷量により20~40分程度の運動を行った。透析中のバイタルサイン・経時的除水量を記録し、同時にBMLで循環血液量の測定をおこなった。テストは1か月連続で行ったが、心血管および骨関節関連の大きなイベントは生じなかった。体水分量・循環血液量をはじめとするモニタリングの係数は記録できた。患者のADLも上昇し、家事などが以前よりも行えるようになった。以上より、今年度は環境整備およびテストが終了しており、計画にそった研究実施内容であったと思われる。
2: おおむね順調に進展している
研究に必要な機材のうち、当初開始時までに導入が間に合うとされていた循環血液量測定計はメーカーの開発遅れにあったが、別会社製の機器(BML)が緊急で導入されたため、開始することが出来た。研究を計画する以前から、リハビリテーション科の医師・理学療法士が腎臓リハビリテーションに関心があり、体成分計測(InBody)を行う栄養科、看護部とも勉強会も行っていたため、研究に対する協力が容易に得られた。てらすエルゴも購入申請から1か月程度で納入され、テストケースにおいて1か月安全性・妥当性を検討し、問題ないことが確認できた。今後は、実施症例数を伸ばすことが主眼となるため、おおむね順調に進展していると考えている。
テストケースでは、研究の一連がガイドラインに準拠して行えば、透析中に運動療法が安全に行えると判断されたため、研究参加に同意される患者数を増やししていく予定である。2020年度は、透析間の体重増加がu少なめで、血圧の変動が非運動時でも少ない患者にてテストをおこなったため、本研究の主目的である体重増加が著しく血圧低下を生じやすい患者において注意深く運動療法を処方し、リフィリングレートおよび血圧の変化を確認する。
当初の研究計画では、ベッド上可変エルゴメーター(てらすエルゴ)を2台購入する予定であったが、COVID-19の影響で、研究に人員を割く見通しが出来なかったため、1台のみの導入となった。また、自転車こぎ運動が難しい患者向けの電動エルゴメーターなども2020年度に購入することを見送った。2021年度は、患者数を増やすとともに、ADLが低めの運動が難しい患者においても低負荷の運動を検討するため、上記物品を購入する予定である。
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Case Rep Nephrol Dialysis
巻: 11 ページ: in press