研究課題/領域番号 |
20K08601
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
金 徳男 大阪医科薬科大学, 医学研究科, 講師 (90319533)
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研究分担者 |
高井 真司 大阪医科薬科大学, 医学研究科, 教授 (80288703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 人工血管狭窄 / 薬物治療 / 人工血管素材 / キマーゼ / キマーゼ阻害薬 / コーティング |
研究実績の概要 |
腎不全患者の血液浄化には透析器を介する短時間内での大流量血液を必要とするゆえに、外科的にバスキュラーアクセスルートを作製しなければならない。その作製術として、①自己動脈と静脈の吻合よるシャント術と② ePTFE (expanded polytetrafluoroethylene) 人工血管の動脈と静脈間におけるループ状の移植術が挙げられる。一般的に、人工血管移植後のバスキュラーアクセスルートに比べて、自己動静脈シャントの開存率が良く、透析患者にとっては非常に好ましいルートのひとつではある。しかし、腎不全患者の多くは血管状態が非常に悪く、自己動静脈シャントの作製に向かないケースにもよく遭遇する。従って、ePTFE人工血管をアクセスルートとして使用する場合が多いが、その開存率の低さが問題になってきている。人工血管移植後の1年開存率は50%以下であり、2年開存率はさらに低下する。そのため、多くの患者が新たなアクセスルートの作製を頻繁に余儀なくされ、精神的な苦痛が甚大であるだけではなく、国家医療保険制度にも負担が大きく、その対策が急がれる。ePTFE人工血管アクセスルートが使用できなくなる(バスキュラーアクセス機能不全)主な原因は人工血管移植後の静脈側から起こってくる血管内膜肥厚による内腔狭窄と言われているが、その詳細な機序などは殆ど不明のままである。 これまでに、我々は犬のePTFE人工血管モデルを用いて、キマーゼ阻害薬の経口投与が人工血管移植後の内膜肥厚を有意に抑制することを見出している。そして、この内膜肥厚の細胞成分は主に外膜側から遊走してくる線維細胞と筋線維芽細胞の内膜側での増殖によるものであることも突き止めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はePTFE人工血管移植後、外膜側の線維芽細胞が人工血管壁素材の隙間を介して内腔側へと浸潤し、内腔側に到達すると、そこで足場を提供したり、浸潤した線維芽細胞自身が増殖、形質転換して筋線維芽細胞になったりして内膜肥厚を形成し、最終的にバスキュラーアクセス不全に陥ると考えている。また、このような線維芽細胞の遊走および増殖、筋線維芽細胞への形質転換には肥満細胞由来のキマーゼが非常に深く関与することも明らかにしてきた。本研究では、キマーゼ阻害薬といった薬物療法に加えて、物理的な方法による線維芽細胞の遊走への遮断などを組み合わせ、腎透析患者のバスキュラーアクセス不全に対する有効な治療法を探りたい。 そこで、我々はキマーゼ阻害薬をePTFE人工血管の外膜側にコーティングし、その後の時間経過とともに起こってくる線維芽細胞の遊走状況についてハムスターを用いてまず検討を行った。結果、キマーゼ非コーティング群に比べて、ハムスターの皮下に移植したPTFE人工血管壁において移植一ヶ月後において貫壁性の線維芽細胞の浸潤が認めらていたが、キマーゼ阻害薬をePTFE人工血管外膜にコーティングした血管壁においてが少量の線維芽細胞の浸潤しか見られなかった。現在、直径6mmのPTFE人工血管を用いてキマーゼ阻害薬のコーティングを試みており、今後、イヌの頸動静脈間移植を行い、実際の血流動態の存在下でキマーゼ阻害薬コーティング群が血管内膜肥厚形成を有意に抑えるか否かを検討していくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
今回、ePTFE工血管の外膜側にキマーゼ阻害薬と非コーティング群をハムスターの移植モデルで検討したところ、非コーティング血管に比べて外膜側からの線維芽細胞の管腔内遊走を有意に抑制されていた。今後このようなコーティングが実際、血流動態が存在している状況下でも外膜側からの線維芽細胞の遊走を抑えると同時に血管内膜肥厚を抑えられるか否かを犬を用いて検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬の一部がコロナの影響で入手が遅れ、次年度の入荷になるためである。
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