腎不全患者の血液浄化には透析器を介する短時間内での大流量血液を必要とするゆえに、外科的にバスキュラーアクセスルートを作製しなければならない。その作製術として、①自己動脈と静脈の吻合よるシャント術と② ePTFE (expanded polytetrafluoroethylene) 人工血管の動脈と静脈間におけるループ状の移植術が挙げられる。一般的に、人工血管移植後のバスキュラーアクセスルートに比べて、自己動静脈シャントの開存率が良く、透析患者にとっては非常に好ましいルートであるが、腎不全患者の多くは血管状態が非常に悪く、自己動静脈シャントの作製に向かないケースにもよく遭遇する。従って、ePTFE人工血管をアクセスルートとして使用する場合が多いが、その開存率の低さが問題になってきている。ePTFE人工血管アクセスルートが使用できなくなる(バスキュラーアクセス機能不全)主な原因は人工血管移植後の静脈側から起こってくる血管内膜肥厚による内腔狭窄と言われているが、その詳細な機序などは殆ど不明のままであった。これまでの我々の研究から、ePTFE人工血管移植後、外膜側の線維芽細胞が人工血管壁素材の隙間を介して内腔側へと浸潤し、内腔側に到達すると、そこで足場を提供したり、浸潤した線維芽細胞自身が増殖、形質転換して筋線維芽細胞になったりして内膜肥厚を形成し、最終的にバスキュラーアクセス不全に陥ることが明らかになり、また、このような内膜肥厚の機序には肥満細胞由来のキマーゼが非常に大事な役割を果たしていることも近年我々が証明している。今回の科研費補助事業期間中、我々は人工血管外膜へのキマーゼ阻害薬のコーティングに関大との共同研究にて成功し、今その人工血管を犬12頭の頚動静脈間に移植し、解析を行っている最中である。
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