研究課題
我々が同定したアディポカインであるバスピンは肥満糖尿病マウスの近位尿細管細胞に取り込まれて、オルガネラ機能不全を軽減させることを見出した。近位尿細管細胞においてバスピンはGRP78 (78kDa-glucose regulated protein)やHSPA1L(heat shock protein 70kDa-1 like)と結合すること、GRP78およびHSPA1Lはクラスリン重鎖と複合体を形成し、バスピンの細胞内取り込みに関与することが明らかとなった。HSPA1LはHSP70に分類されるが、腎臓における生理的・病態的意義は十分に知られていない。培養近位尿細管細胞(HK2細胞)に10mg/ml bovine serum albumin(BSA)を添加すると、HSPA1Lの培養液への分泌が増加し、細胞内HSPA1L蛋白量は低下し、p62の蓄積が観察された。バスピンはBSAによるHSPA1Lの細胞外分泌を抑制し、p62の蓄積を抑制した。HSPA1Lとlamp2の複合体形成も明らかとなり、バスピンはHSPA1Lを介してオートファジー不全を軽減することが示唆された。次にストレプトゾトシンで糖尿病を誘発したバスピン欠損マウス(vaspin-/-)の尿細管細胞を電顕で観察すると、玉ねぎ状(多重リング状)に渦巻くミトコンドリアが不均一な分布で観察された。この特徴的なミトコンドリアに着目し、Advanced Bioimaging Support 先端バイオイメージング支援プラットフォームの支援を頂き、SBF-SEM法で立体構築による観察を行った。伸長したミトコンドリアがリング状に彎曲し、さらに外側から包み込むように長いミトコンドリアが彎曲して幾重にも重なる構造が観察でき、割面の場所によって玉ねぎ状に描出された。バスピンのミトコンドリアダイナミクスにおける役割に注目し検討を進めている。
2: おおむね順調に進展している
Advanced Bioimaging Support 先端バイオイメージング支援プラットフォームの支援を頂き、多重リング状に見えるミトコンドリアの立体構造の把握が可能となった。培養細胞における検討も予定通り進展中である。
STZで糖尿病を誘発したvaspin-/-マウス、野生型、バスピントランスジェニック(Tg)マウスの腎臓から蛋白を抽出し、mitofusin(Mfn)1,2、Opa1、Drp1などミトコンドリアfission, fusionに関わる分子の発現について、現在検討中である。糖尿病マウスの尿細管細胞では、大部分のミトコンドリアは短く分断されていた。しかし、vaspin-/-では部分的に玉ねぎ状の特徴的ミトコンドリアの出現を認めた。特徴的なミトコンドリアが出現する病態と分子機構、およびバスピンのミトコンドリアにおける作用について培養細胞を用いて検討する。また、上皮間葉転換におけるHSPA1Lの作用を示唆する結果を得ており、さらに検討を進める。
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